NHK朝の連続テレビ小説「虎に翼」が始まります。
「虎に翼」は古代中国の故事が由来。意味は「強いものが更に強くなる」と言われています。日本のことわざ「鬼に金棒」と同じだというのですね。
日本ではあまり馴染みのない言葉ですがそういう解釈になっているようです。
「虎に翼」の由来は古代中国の書物「韓非子」だといいます。NHKのサイトやwikipediaにもそう書いています。
でも。
「ええっ?韓非子はそんな意味だったかな?」
と思ったので改めて調べてみました。
すると驚きの内容が書いてあったのです。
このサイトは中国史やそれを扱ったドラマが中心ですので朝ドラの内容は紹介しません。中国の古典から虎に翼の由来と、本来の意味について紹介します。
韓非子とは
韓非子は古代中国の春秋戦国時代。紀元前3世紀ごろに生きた韓非(かん・ぴ)という人が書いた書物とされます。「されてます」というのは本当に韓非子が全部書いたのかわからないから。
でもこの記事は韓非子の著者を考察するが目的ではないので通説通り韓非が書いたことにして話を進めます。
韓非が生きたのは今から2200年以上昔。当時の中国はまだ統一されてません。たくさんの国が争う戦乱の時代でした。君主や領主たちは勝つための方法、領地や領民を治めるための方法、国を運営するための方法を欲しがっていました。
そんな時代に活躍したのが諸子百家と呼ばれる人たち。諸子百家は王や領主に自分のアイデアを売り込んで採用してもらい、立身出世を目指したり名を売ったり(名が売れれば弟子が増える=儲かる)していました。
ようするに戦国時代のコンサル(コンサルタント)です。ちなみに孔子も乱世に生きたコンサルの一人です。
韓非は法を重視する立場の人。曖昧で客観的に証明できない徳で世の中を治める儒家の思想を批判。「ルールをしっかり作って厳しく守れば秩序ある世の中になる。だから国も上手く統治できる。」という考えの人です。
秦の王・嬴政(えい・せい)は韓非の考えを採用して中国を統一、始皇帝になりました。
韓非子 難勢篇の「爲虎傅翼」
韓非の教えをまとめた本が「韓非子(かんぴし)」です。
韓非子の難勢篇という部分に虎に翼の言葉がでてきます。
その部分を紹介すると
故《周書》曰:「毋爲虎傅翼,將飛入邑,擇人而食之。」夫乘不肖人於勢,是爲虎傅翼也。
日本語訳:
”したがって周書にはこう書かれています。「虎に翼を与えるな。村に飛んで入り、人を食べてしまうからだ」だから愚か者に力をもたせるのは虎に翼を与えるのと同じなのです。”
なんか一般に言われているのとは違う意味で使ってませんか?
韓非は「愚かな人に権力を持たせてはいけない」という意味で虎に翼の言葉を使ってます。
韓非の言いたかったこと
この書は国の統治の仕方を書いた本です。原文の不肖人は愚かな王や重臣、政治家のこと。韓非は悪い王を虎に、権力を翼に例えています。
韓非が読んだ「周書」という本にはそう書かれてあったのですから。韓非より古い時代から「虎に翼」は悪い意味だったのでしょう。
愚かな人に権力を持たせてはいけない。きちんと法律を作って正しく運用しなさい。というのが韓非の言いたかったことのようです。
韓非はいろいろあって秦王 嬴政に処刑されてしまいました。でも秦王 嬴政は韓非の考えを取り入れ法を作り、国を強くして中華を統一。乱世を終わらせました。
韓非子の 虎に翼 はこうなってはいけないものの例え
韓非子の「爲虎傅翼(翼を得た虎)」はあってはいけないものの例えとして登場します。
だって「爲虎傅翼」の前に「毋」が付いているんですから。
「毋」の日本語訳は「なかれ、するな」
「毋爲虎傅翼」の日本語訳は「虎に翼を与えることなかれ」つまり「虎に翼を与えるな」
中国語の「爲虎傅翼」は日本で言われているようにただ「強いものが更に強くなる」という単純な意味ではありません。
強いものが何かを得て更に強くなるには違いないのですが、悪い意味で使います。
敵が更に強くなって手に負えなくなる。
悪者が更に力をつけて更に悪くなる。
というニュアンスが強いのです。
日本の「鬼に金棒」はいい意味でも使いますが。「爲虎傅翼」は悪い意味で使います。
使い方
例えば。
フェイクニュースをネットで流す人が生成AIを手に入れれば「虎に翼」。
テロ組織が核を手に入れれば「虎に翼」。
などなど。
ライバル会社が人気タレントとコラボすれば自社には脅威になりますから「虎に翼」になりますが。
自社が人気タレントとコラボしても自社にとっては「虎に翼」にはなりません。この場合は「鬼に金棒」の方がいいです。
鬼も怖いイメージがあるかもしれませんが、鬼はもともとは人知を超えた力を持つ存在なので善悪はありません。だから「鬼に金棒」は単純に「強いものがより強くなる」という意味です。
逆をいうと。韓非子を由来にするなら。
悪人が翼を得た虎にならないために、きちんとした法律を作ってしっかりと運用しなければいけない。
という戒めにはなるかもしれません。
三国志の「如虎添翼」はいい意味
中国には「爲虎傅翼」によく似た言葉に「如虎添翼」があります。
「如虎添翼」の日本語訳は「翼の付いた虎のように」
例えば「三国志演義」では
今玄德得諸葛亮為輔,如虎生翼矣
「今、劉備は諸葛亮の助けを得た。翼が生えた虎のようだ」
とあります。
三国志演義では劉備は主人公ですからこれはいい意味で使ってます。
現代中国では「如虎添翼」の言葉を使うようです。
中国では韓非子由来の「爲虎傅翼」は悪い意味で使いますが。三国志由来の「如虎添翼」は良い意味でも悪い意味でもどちらでも使います。こちらの方が「鬼に金棒」に近い。
日本語に訳すと似たようなものになってしまうのですけどね。
日本では「虎に翼」はいい意味で使うと紹介されます。これは韓非子よりも三国志の影響が強いようですね。
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