こんにちは、フミヤです。
韓国ドラマには朝鮮王朝の武官が登場しますよね。彼らが身につけていた色鮮やかな官服や、緊迫した表情で王命を拝命したり、戦う姿は頼もしく感じます。
でも、彼らの具体的な役割や階級はあまり知られていないかもしれません。
そこでこの記事では朝鮮王朝の支配階級である両班の中でも国を守る武官たちの世界を詳しく紹介します。
これを知れば韓国ドラマがもっと面白くなると思いますよ。
朝鮮王朝の武官の階級は「九品十八階」
朝鮮王朝の武官は文官とともに「両班(ヤンバン)」と呼ばれる支配階級を形成していました。武官は国家の軍事を担当しました。その役職と階級は王朝の基本法典である『経国大典(キョングクテジョン)』などの法典によって決められていました。
官位は正一品(チョンイルプム)から従九品(チョングプム)までの18階級(品階)に分かれていました。武官(西班)は文官(東班)に比べて昇進に上限があるなど、やや低い地位に置かれていたのが特徴です。
官位品階制度と官服の色
武官の階級は文官と同じように18の品階に分かれていました。階級によって官服の色も違います。これは身分を目で見て分かるようにするためです。時代によっても服の色は違いますが、ドラマになる機会の多い朝鮮中期以降は以下のようになっていました。
品階 | 官服の色 | 呼称など |
---|---|---|
正一品 ~ 従二品 | 赤 | 大監(テガム)と呼ばれる最高位の官僚です。 |
正三品 堂上官 | 赤 | 令監(ヨンガム)と呼ばれ国王と政策を議論できました。 |
正三品 堂下官 ~ 従六品 | 青 | ナウリ(羅鬱里)と呼ばれます。 |
正七品 ~ 従九品 | 緑 | ナウリ(羅鬱里)と呼ばれます。 |
武官の最高職は実質的には従一品や正二品が限界です。文官の最高位である正一品の領議政(ヨンイジョン)などに就くことはできませんでした。武官の正一品は、ほとんど引退後の名誉職でした。
各階級の具体的な役目
武官の役目はその階級によって大きく違いました。上位の階級は国家の軍事戦略を立案し大規模な軍隊を指揮する立場にありました。彼らは王の側近として軍事顧問を務め重要な政策決定にも関わっています。
中位の階級は各地の要衝を守る司令官や中央軍の各部隊の指揮官として、実質的な軍務を遂行しました。彼らは訓練の監督や兵士の統率地域の治安維持など、様々な任務を担当しました。戦時には最前線で部隊を指揮することも多くありました。
下位の階級は直接的な兵士の指導や末端の事務や警備などが中心でした。彼らは兵士と関わる機会が多く、日々の訓練や任務を共にしました。国境警備や盗賊の討伐など、危険を伴う任務に就くこともよくありました。
文官との違いと武官の地位
朝鮮王朝では文官と武官はともに国家を支える重要な存在でした。でもその地位には大きな違いがあります。一般的に文官が国家の政策決定や行政を担当。武官は国防や治安維持を担う「武」の役割を担いました。
朝鮮では「文治」が重んじられたため武官の地位はやや低く出世の上限も限られていました。しかし戦争が起こると武官の役割が非常に重要視されました。特に壬辰戦争(文禄・慶長の役)のような大規模な戦争の後には武官の重要性が認められ多少は地位が上がり、新しい役職も作られました。
でも普段は文官が優遇される傾向が強く、武官の昇進は文官に比べると難しいのが現実でした。武官が昇進するためには手柄を立てるだけでなく、普段から文官と良好な関係を築くことも重要でした。
朝鮮王朝の主要な武官の役職と軍事組織
朝鮮王朝の武官には様々な役職がありました。また時代によっても組織が違います。次に主な組織と役職を紹介します。
朝鮮前期の主要軍事組織と武官役職
朝鮮前期の軍事の中心的な組織は五衛都総府(オウィドチョンブ)と、その下に組織された五衛(オウィ)です。五衛は義興衛・龍驤衛・虎賁衛・忠佐衛・忠武衛の部隊で構成されていました。
品階 | 官職名(読み) | 備考 |
---|---|---|
正二品 | 都総管(トチョングァン) | 五衛都総府の長官。他の官職との兼任です。 |
従二品 | 副総管(プチョングァン) | 五衛都総府の次官。他の官職との兼任です。 |
従二品 | 五衛将(オウィジャン) | 各衛の長です。 |
正三品 堂下 | 上護軍(サンホグン) | |
従三品 | 大護軍(テホグン) | |
正四品 | 護軍(ホグン) | |
従四品 | 副護軍(プホグン) | |
正五品 | 司直(サジク) | |
従五品 | 副司直(プサジク) | |
正六品 | 司果(サグァ) | |
従六品 | 副司果(プサグァ)部将(プジャン) | |
正七品 | 司正(サジョン) | |
従七品 | 副司正(プサジョン) | |
正八品 | 司猛(サメン) | |
従八品 | 副司猛(プサメン) | |
正九品 | 司勇(サヨン) | |
従九品 | 副司勇(プサヨン) | 最下位の武官です。 |
朝鮮後期の主要な軍事組織と武官役職
文禄・慶長の役(壬辰戦争)以降は首都の漢城(ハンソン)の防衛を強化するために五軍営(オグニョン)が設置されました。それぞれに独自の指揮系統と役職がありました。
訓練都監(フルリョンドガム)
五軍営の中では最も早く壬辰戦争の最中の1593年に設立されました。当時の朝鮮軍が大規模な戦闘や新しい戦術に対応できなかったため、専門的な訓練を行う必要性がでてきたためです。
設立された当時の目的は兵士の訓練が主な目的です。特に日本の火縄銃(鳥銃)の戦術に衝撃を受けた朝鮮軍は火器を使った戦闘に対応するための訓練を重視。実践的な武術訓練が行われました。
戦後は首都の防衛を担当しました。
訓練都監(フルリョンドガム)に配属される武官の役職は以下の通り。
品階 | 官職名(読み) |
---|---|
正一品 | 都提調(トチェジョ) |
正二品 | 提調(チェジョ) |
従二品 | 大将(テジャン) |
正三品堂上 | 別将(ピョルチャン)千総(チョンチョン) |
従四品 | 把総(パチョン) |
従六品 | 従事官(チョンサグァン) |
従九品 | 哨官(チョグァン) |
下部組織として、武器の製造や保管を行う「下都監(ハドガム)」などの施設も存在しました。ドラマ「華政」の「火器都監(ファギトガム)」のモデルになった組織です。
御営庁(オヨンチョン)
仁祖がクーデターで即位した後、後金の脅威に対抗するために設置。当初は王の護衛部隊としての性格が強かったですが、後に首都防衛も役目になりました。
- 設立: 1623年
- 主な任務:国王の護衛、首都漢城の防衛
- 特徴: 訓練都監、禁衛営と共に首都を守る中核部隊「三軍営」の一つとされました。主に漢城の東北部を担当しました。
総戎庁(チョンユンチョン)
仁祖の時代の1624年設立。後金の侵攻に備え、首都圏の外郭防衛を強化するために設置。漢城(ソウル)北方の防衛ラインや、有事の際の避難場所になる北漢山城(プカンサンソン)の守備を担当しました。
- 設立: 1624年
- 主な任務:首都圏(京畿道)の北部地域の防衛、北漢山城の守備
- 特徴: 広い範囲な地域の防衛を担当し、地方軍としての性格も併せ持っていました。
守禦庁(スオチョン)
仁祖の時代、1626年設立。南漢山城(ナムハンサンソン)の防衛と首都圏(京畿道)の東南部地域の防衛を専門に担当しました。
2度目の清との戦争(丙子の役・1636年)で激戦区になった南漢山城の防衛を強化するために設置されました。
- 設立: 1626年
- 主な任務:南漢山城の防衛、首都圏(京畿道)の東南部地域の防衛
- 特徴: 総戎庁が首都の北方を守るのに対し、守禦庁は首都の南東を守る拠点として機能しました。
禁衛営(クミョン)
五軍営の中で最も遅く、粛宗の時代に設立された部隊。王権の強化を目的として既存の様々な部隊を統合して作られました。国王の親衛隊としての性格が強い部隊です。
- 設立: 1682年
- 主な任務:国王の護衛(宿衛)、首都漢陽の防衛
- 特徴: 王に直属する精鋭部隊として、訓練都監、御営庁と共に「三軍営」を形成し、首都防衛と王権の象徴としての役割を担いました。内禁衛と役割が被る部分もあり、禁衛営よりも権限が強いです。
これらの五軍営は約200年間にわたって朝鮮王朝の軍事力の根幹を成しました。
その他の主な官庁と武官の役職
中央官庁と武官の役職
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- 兵曹(ピョンジョ): 軍事行政全般と武官の人事を担当する中央官庁(六曹の一つ)です。長官の兵曹判書(ピョンジョパンソ)は多くは文官が務めました。
- 捕盗庁(ポドチョン): 首都の治安維持を担当する警察組織です。長官である捕盗大将(ポドテジャン)は従二品の武官職でした。
- 義禁府(ウィグムブ): 王直属の特別司法機関(官庁)の名称です。主に国家反逆罪や王族に関わる犯罪を扱いました。捜査・逮捕・取り調べを行う権限を持ち実際にこれらの実務を担当する都事(トサ)などの役職には武芸に秀でた武官が任命されました。
- 内禁衛(ネグミ): 国王の親衛隊でエリート武官で構成されました。その長である内禁衛将(ネグミジャン)は従二品の高位武官でした。禁衛営設立後は役割が減っていきました。
- 都元帥(トウォンス):普段は存在しない役職。戦争や大規模な反乱鎮圧などが起きた時に、全軍の指揮を執る朝鮮軍全体の最高司令官です。必要なときにだけ任命される臨時の役職です。現職で最高クラスの武官が任命されることが多いです。
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地方官庁と武官の役職
地方の防衛を担当する武官も重要な役職でした。
- 兵馬節度使(ピョンマジョルトサ):従二品
各道(行政区分)の地方の陸軍を指揮する最高司令官。「兵使(ピョンサ)」とも呼ばれます。 - 水軍節度使(スグンジョルトサ):正三品堂上
各道の水軍を指揮する最高司令官。「水使(スサ)」とも呼ばれます。 - 兵馬虞候(ピョンマウフ)、水軍虞候(スグンウフ):正四品
節度使を補佐する副司令官です。 - 万戸(マノ):正四品
沿岸や国境の要衝である「鎮」の司令官です。 - 千戸(チョノ):従四品
万戸の下で鎮の実務的な指揮を執りました。
まとめ:朝鮮王朝の武官階級が示す歴史の奥深さ
朝鮮王朝の武官の階級と役割について、ご理解いただけたでしょうか?
文官に比べると表舞台に出る機会は少なかったかもしれませんし、ドラマに登場する機会も好きないです。でも彼ら武官は国の防衛と治安維持を担当する重要な存在でした。
特に戦乱の時代には、その存在感は大きく増して国家存亡の危機を救う原動力となりました。
この記事を通して武官たちの役目や立場を理解してドラマを楽しでくださいね。
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