「ポッサム」と聞くと、韓国時代劇ファンの多くは未亡人が包まれて連れ去られる風習を思い浮かべるかもしれません。
でも男がポッサムされるという驚きの逸話も伝わっています。この話はドラマ「世子が消えた」の元ネタにもなっています。果たしてこの「男ポッサム」は史実なのでしょうか?それとも物語の中だけの出来事なのでしょうか。
本記事では、原話や歴史資料をもとに、ドラマの元ネタとなった話や実際に残る記録を検証、男ポッサムの真相に迫ります。
この記事で分かること
- 寡婦ポッサムと男ポッサムの違いと歴史的背景
- 『世子が消えた』に登場する男ポッサムの元ネタ
- 男ポッサムは史実とはいいにくい理由
男ポッサムは史実なのか、原話・記録から検証!
ポッサムは寡婦だけじゃない?
男もポッサムされた話があったと聞いたら驚くでしょうか?
韓国ドラマファンなら「ポッサム」といえば、まず寡婦(夫を亡くした女性)を包んで連れ去り、再婚させる風習を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか?
実際、朝鮮時代の村社会では未亡人が再婚しにくい儒教的な価値観があり。寡婦を家から包んで連れ出し、強引に縁を作ると“ポッサム(寡婦ポッサム、縛娶)が記録されています。しかもこの寡婦ポッサムは「縛娶」として1805年の法令資料にやり方まで具体的に記録が残っています。
男も「ポッサム」された?!
ところが、韓国ドラマ『世子が消えた』では、なんと王世子がさらわれるという、逆転現象が描かれています。
「えっ、男がポッサムされるなんて、そんな話あるの?」
と驚いた方も多いでしょう。
実はこの発想はドラマの創作ではありません。
「男がどこかへ連れていかれる」タイプの昔話・逸話が実際に朝鮮時代の記録に残っているのです。
『世子が消えた』のモデルは『於于野談』
ドラマの元ネタ「於于野談」
このドラマは架空の王朝が舞台です。王も世子も架空です。公式紹介でも「モデルにした史実の王は存在しません」と書かれています。
ですが「世子(次期国王)が布に包まれてさらわれる」エピソードにはちゃんと“元ネタ”があります。
男のポッサム、通称「チョンガクポッサム(총각보쌈)」がわかりやすく登場するのが逸話集『於于野談』です。
(チョンガク(총각)は朝鮮語で未婚の男、若い男)
『於于野談』は17世紀の文臣・柳夢寅(ユ・モンイン)が書いたもので、当時の都・漢陽(ハニャン/ソウル)で起きた奇妙な話や伝説、噂話をまとめた本です。
この中に以下のような話があります。
ある日の夜、両班の家で「娘の結婚運が悪く、このままでは寡婦(夫に先立たれる運命)になってしまう」と心配されていました。
そこで家族は“厄払い”のため、外から見知らぬ未婚の若い男(チョンガ)を選び、夜陰に紛れて彼を布(褓)で包み込んで家に連れ込むことにします。
男は突然の出来事に抵抗する暇もなく布で包まれ、家の中へ運ばれました。
そのまま「厄払い」の儀式として、家の娘と無理やり一夜を共にさせられます。
儀式が終わると、男は誰にも口外しないよう“口止め”を言い渡され、家から解放されました。
男はこの出来事が忘れられず次の年も同じ場所に行ったといいます。
出典:『於于野談』韓国民族文化大百科事典 より和訳
このエピソードを「世子」に置き換え、宮廷陰謀や恋愛要素を加えたのが『世子が消えた』のポッサムなのです。
史実としてあったのか?
『於于野談』は確かに実在した文臣・柳夢寅が書いたものですが、世間に伝わる噂話や伝説を集めたもの。
こういう話があったのは事実としても、ここに書かれたチョンガボッサムが実際にあった出来事なのかは不明です。
ポッサムには種類がある?
一般にはポッサムは寡婦がさらわれるものです。でも民話研究の世界では別のポッサムの話もあります。
寡婦ポッサム(과부보쌈/縛娶)
歴史的に確認できるポッサムは、主に「寡婦ポッサム(과부보쌈)」です。これは夜間に未亡人を布で包んで連れ去り、強引に妻にする行為を指します。
1805年の法令資料(受教定例)にも書かれています。
そこには
「守寡(未亡人)の女性を徒党を組んで包み、縛って連れ去る。これを『縛娶』と呼ぶ」
出典『受教定例』
と具体的に記録されています。
当時の王(純祖)が「盗賊と同罪にせよ」と厳命を下すほど社会問題化していて、ただの伝説ではなく現実に多発していた深刻な事件だったことが分かります。
寡婦ポッサムには事件性の高いものの他にももいくつかのパターンがあります。詳しくはポッサム婚の実話・韓国ドラマで誤解されがちな史実とは?で紹介しています。
男のポッサム(총각보쌈/チョンガクポッサム)
独身男性がターゲットになる「男のポッサム(총각보쌈)」という話も存在します。
これは『於于野談』で紹介したように娘の厄払いや結婚運を好転させるため、外部の未婚男性(チョンガク)を夜間に拉致して無理やり同衾させるという衝撃的な内容です。
でも「男ポッサム」については、寡婦ポッサムとは大きく事情が違います。
「男ポッサム」が登場するのは民話や説話集の中。「噂話」や「昔話」として紹介されています。
役所や裁判所などの公的な事件記録は現時点では確認されていません。
男ポッサムは「史実」か「物語」か
以上のことから、「寡婦ポッサム」は実際に社会で行われていた史実なのは確かですが。
「男のポッサム」はあくまで語り継がれてきた逸話・伝承の可能性が高いと考えられます。
ちなみに、民話の世界ではさらに珍しい例として、未婚の女性を連れ去る「処女ポッサム」の話もわずかに語られていますが、こちらも「男のポッサム」と同様に事実として行われていたという根拠は乏しいのが現状です。
まとめ:ドラマと史実を混ぜないで楽しむ
ドラマ『世子が消えた』は普通なら連れ去られそうになり「世子(王位継承者)」がポッサムされるという大胆な設定が魅力のドラマです。
『世子が消えた』のストーリーは『於于野談』という説話がヒントになっていることが分かりました。
でも『於于野談』で語られる男ポッサムは今のところ物語の中でしか登場しません。
「男ポッサムは実際にあったかもしれないし、なかったかもしれない……」そんな昔の人たちの想像力に思いを馳せながら、ドラマならではの自由な展開を楽しむのがよいのではないでしょうか。
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