こんにちはフミヤです。
「瓔珞」が中国で放送禁止になった。というのは公式HPにも書いてるので知っている人も多いでしょう。
「瓔珞」だけでなく「如懿伝」も放送禁止になってます。清朝の宮廷ドラマが狙い撃ちされたようです。
なぜ中国で「瓔珞」「如懿伝」などの宮廷ドラマが放送禁止になったのか、その理由を紹介します。
2020年「瓔珞」「如懿伝」がネット配信サイトから削除
2020年。「iQiyi」や「Tencent Video」など中国で運営している大手ネット配信サービスから「瓔珞」が削除。
やや遅れて「如懿伝」も削除され。
中国大陸では見られなくなりました。
台湾を含めた中国の外では問題なく見られます。日本では今でも有料放送やテレビで見ることができます。
なぜ「瓔珞」「如懿伝」が中国で見られなくなったのか、その理由は発表されていません。
そのためネット上では様々な意見が飛び交いました。
超人気作が何の前触れもなく突然配信停止になり、その後も何の発表もない。というのは中国らしいといえば中国らしいです。
でも、公式発表はなくても理由を知る手がかりはあります。
中国は規制が厳しい
「瓔珞」に限ったことではなく、もともと宮廷ドラマは中国では以前から批判のあったジャンルです。
中国のエンターテイメント業界は規制が非常に厳しく、政府の意向に沿わない作品は配信停止や放送禁止になることがあります。
今回の宮廷ドラマの配信停止もそうした規制のひとつと考えられます。
「瓔珞」「如懿伝」が規制された理由
中国ではテレビ・新聞=政府の意見
政府は発表していないので規制の理由はわかりませんが。政府が何を考えているかは知ることができます。
「北京日報」に規制を知る手がかりと思われる記事が載ったからです。
中国のマスコミに自由な表現は存在しません。中国政府の公式発表はなくても、中国のテレビや新聞の発表をみれば政府の考えが分かるのです。
北京市が発行する日刊新聞。この新聞は中国共産党の機関紙です。この新聞に書かれていることは中国共産党が考えていること・主張したいことになります。
「瓔珞」「如懿伝」の5つの罪
2019年初頭に「北京日報」は宮廷闘争ドラマへの批判として、以下の「五つの罪」を公表しました。
- 皇室生活様式の賛美: 皇族の生活様式を美化し、それが流行している。
- 宮廷闘争の誇張: 宮廷闘争の場面を誇張して描き、現実社会の人間関係に悪影響を与えている。
- 皇帝・将軍の美化: 皇帝や王朝時代の人物を美化し、現代の英雄や模範となるべき人々の存在を軽視している。
- 贅沢と享楽の推奨: 贅沢や享楽を求める風潮を助長し、質素倹約の美徳を損なっている。
- 商業利益の偏重: 利益を優先するあまり、社会に良い影響を与えるというドラマの役割が薄れている。
「北京日報」より日本語訳
「瓔珞」「如懿伝」が中国で公開されたのが2018年ですからそれらのドラマを意識しているのは間違いありません。
この発表を読んでみると時代遅れも激しすぎる内容。
これが21世紀の公式なマスメディアに載っているのは驚き。
まるで江戸時代の松平定信の「寛政の改革」や水野忠邦の「天保の改革」みたいです。
中国はあらためて儒教の国だと思いますし、共産主義(社会主義)=専制国家=独裁とはこういうものなのだと思い知らされます。
日本人の私たちには「瓔珞」「如懿伝」の「何がいけないの?」という疑問を持つ人は多いと思います。
だからHPで公開中止になったと書かれていてもただの宣伝文句、凄いと思わせるための誇張とくらいしか思ってない人も多いと思います。
社会主義の価値観に反する
よくいわれているのが王朝もの宮廷ドラマは社会主義的な価値観に反するというもの。
中国という国は王朝の否定から始まりました。
清朝を美化したり・素晴らしいと思ったり真似るのは王朝を打倒した「3.現代の英雄や模範となるべき人々をないがしろにする行為」。
とくに現代の中国を支えている社会主義の体制では身分制や世襲の王族が存在するのを否定、人々の平等をうたってます。
特権階級の皇族を崇拝したり憧れたりするのは駄目なのです。
王朝ドラマそのものが消えてないのはなぜ?
でも身分制や世襲の特権階級が駄目なら。清以外の王朝も駄目なはずです。
確かに以前に比べると時代劇が減っています。時代の流れかもしれませんが、政府が意図的に減らそうとしているともいいます。
ところが明・宋・唐・漢・秦のドラマは今でもあります。架空王朝のドラマも多いです。
「瓔珞」「如懿伝」の何がいけないのでしょうか?
清朝は中国の黒歴史
「瓔珞」「如懿伝」以前から清朝ドラマはありました。ピークになったのが「瓔珞」「如懿伝」のころ。
当時、中国社会では清朝ブームが巻き起こりました。
例えば。
- 衣装・ファッション:清朝スタイルを真似る人が出てきました。
(さすがに辮髪を真似る人はいませんけれど) - 飲食業、内装業界:皇室宮廷文化を売り出すようになりました。
- 観光業:清朝ゆかりの土地、皇帝や皇后の出身地をアピールする観光地も出てきました。
など。
中国政府も事あるごとに中国の伝統や歴史をアピールしますが。
何しろ清は満洲人(女真族)が作った国です。
「我々は世界一」と思っている中華思想に凝り固まった漢人にとって、野蛮人のはずの満洲人(女真族)に征服され200年以上も支配されていた屈辱の時代が清朝です。
黒歴史にしたいくらいでしょう。
しかも清朝は歴代中華王朝でも最大級に領土が広く、国力も強く、経済も発展した国でした。
今の中国の国境や領土はほぼ清朝のまま(清朝の方がやや広い)。中国の共通語ももとは清朝の言葉です。
中国最大級に繁栄した王朝が実は漢民族ではなく野蛮人と彼らが思っている人たちが作った国だった。
今の中国を作ったのは漢人ではなく満洲人の清朝だった。
というのは屈辱です。
もしこれが明・宋・漢ならまだ中国政府も我慢できたのかもしれません。
・夢華録(むかろく)に和菓子疑惑?!
庶民にとってはどうでもいい話ですけれど。今の中国支配者層にとっては清朝は称賛したくないというのが本音でしょう。
清朝ドラマが減っている
そのせいか最近では清朝ドラマが減りました。
原作は清朝の王室でもテレビドラマ化では架空王朝にされているものも目につくようになりました。例えば。
- 「長安賢后伝」
原作ヒロインは順治帝の生母・孝荘文皇后ボルジキト氏。ドルゴンとホンタイジとの三角関係や対立が描かれます。 - 「恋心が芽吹く頃」
原作ヒロインは雍正帝の側室で乾隆帝の生母・孝聖憲皇后ニオフル氏 - 「卿卿日常」
原作は現代の女性が清朝時代にタイムスリップ 四阿哥(後の雍正帝)の福晋(正室)になる話。ドラマはタイムスリップがなく別の地域出身という設定。原型がわからないくらい変更されています。
のように。
想像になりますが、卿卿日常なんかはかなり当局の指導が入ってるんじゃないでしょうかね。
さらに「如懿伝」と同じシリーズの「徳妃伝」はドラマ化されないでしょう。ドラマ化されたら面白いと思うのに残念です。
国民がコントロールできなくなるのを恐れる
中国ドラマ「瓔珞」は、中国で150億回以上再生されるほど大人気でした。このドラマの影響で紫禁城やゆかりの地が人気スポットになりドラマの衣装やデザインを真似する人がたくさん現れました。
でも予想外の国民の夢中ぶりに中国政府は危機感を持ったようです。
中国政府は国民がまとまって政府に逆らうことをすごく恐れています。中国には選挙がないし野党もいません。だから、政府が失敗しても政権がひっくり返る心配はないんです。
中国にも共産党以外の政党は存在しますが、共産党の支配下にあるダミー政党です。
でも暴動が起きる可能性はあります。特に今、天安門事件みたいなことが起これば世界中が注目してしまうので政府もすごく不安になるはずです。

天安門事件を伝える英字新聞
中国政府は人々が集まって政府に反対するのを恐れています。だから中国では集会が厳しく制限されていて、反日デモ以外の大きな集会はほとんどできません。
ドラマの人気と政府の思惑にどういう関係があるの?
ドラマの人気と政府の心配は関係ないように思うかもしれません。
でも、ドラマがすごく人気になると、「国民をコントロールできなくなる」と政府は考えるようです。そして「この熱気が政府への反発に繋がるんじゃないか」と心配するんです。
これは群集心理にはありがちなことで。最初は別の理由で盛り上がっていても、何かのきっかけで別の方向にエネルギーが向いてしまうことはあります。
日本に住んでいると、そんなのは考えすぎと思うかもしれません。
中国は基本的に他人を信用しない。そのわりに扇動されやすい国民性です。中国3000年の歴史で民衆の反乱がきっかけで王朝が潰れたことが何度もあるので、民衆の熱気が反政府活動に結びつくのを怖れているのです。
とにかく政府が国民をコントロールできなくなるのを中国政府は嫌うのです。
まとめ
2020年に中国のネット配信サイトから「瓔珞」と「如懿伝」が削除された理由を中国政府の意向と社会情勢から考察しました。
表面的な理由は宮廷ドラマが社会主義的価値観に合わないことです。特に清朝という中国にとって複雑な歴史を持つ王朝を舞台にした「瓔珞」の人気は政府の不満を高めたと考えられます。
でも、もっと深い理由としては中国政府が国民の思想統制を重視している点が挙げられます。ドラマの人気が過剰に高まり社会現象化して政府が国民をコントロールできなくなるのを恐れているのです。
中国共産党の機関紙「北京日報」が「五つの罪」を公表したことからも、政府が宮廷ドラマに不満を持っているのが伝わってきます。
これらの要素が重なって「瓔珞」や「如懿伝」などの宮廷ドラマの配信停止になったようです。
この件は中国の言論統制が厳しいというのを教えてくれますし、人気ドラマでも政府の意向で配信停止になる可能性があるのだと思い知らせてくれました。
中国のエンターテイメント業界はますます政府の意向に沿った作品作りが求められるようになっています。今後は瓔珞のような面白いドラマが減るかもしれません。
コメント