「トンイ」と「ヘチ 王座への道」は朝鮮王朝で実在した母・淑嬪崔氏と息子・英祖を主役にした“親子二代”の物語です。
この記事では両作のあらすじや史実との違い、さらに「イ・サン」まで含めた三作品の繋がり、どの順番で見ると楽しみやすいかを整理して解説します。

この記事で分かること
- 「トンイ」と「ヘチ 王座への道」が史実の淑嬪崔氏と英祖の母子をどうドラマ化しているか?
- 粛宗→景宗→英祖→思悼世子→正祖へつながる王家三世代の家系図と、「イ・サン」まで含めた三作品の関係
- 史実の淑嬪崔氏・英祖の人物像とドラマでのキャラクター設定の違いとその狙い
- 脚本家キム・イヨンが三作品を手がけたことで生まれる世界観の一体感と、おすすめの視聴順
ヘチ 王座への道とトンイはどんなドラマ?
「ヘチ 王座への道」と「トンイ」は、どちらも朝鮮王朝を舞台にした時代劇で、「トンイ=母」「ヘチ=その息子ヨニングン」と、史実の親子を主役にしたドラマです。
トンイとは?
「トンイ」は朝鮮王朝19代王・粛宗の時代を舞台に宮女トンイ(淑嬪崔氏)の一生を描いたドラマです。
ドラマのトンイは次のようなキャラクターです。
・賤民出身の少女として宮中に入り、雑用係のような立場からスタート
・宮廷で雑務をこなすうちに王妃や側室たちの権力争い派閥の対立に巻き込まれていく
・聡明さと観察力で陰謀を見抜き、粛宗の信頼を得ていく
・やがて側室となり王子を出産。最終的に「淑嬪」となる。晩年は自ら宮廷を出て民と共に暮らした。
この王子が延礽君(ヨニングン)、のちの21代王・英祖です。ドラマ「トンイ」は身分の低い宮女が数々の試練をくぐり抜け、やがて「英祖の母」として歴史に名を残すまでの過程を描いた物語といえます。
ヘチ 王座への道とは?
「ヘチ 王座への道」はトンイの息子・延礽君(ヨニングン)を主人公にしたドラマです。
舞台は19代王・粛宗の晩年から始まり、景宗の時代へと移り老論・少論の派閥争いが激化するなかでヨニングンが世弟に指名され英祖として即位するまでの道のりを描きます。
「ヘチ」でのヨニングンは次のようなイメージになります。
- 序盤は皮肉屋で素行の悪い王子を演じている
- 実は鋭い洞察力と強い正義感を持ち、民の苦しみを放っておけない
- 権力ゲームそのものより「国をどう立て直すか」を気にするタイプ
「トンイ」では幼い王子として登場した延礽君が「ヘチ」では政治の荒波に飛び込んでいく青年として描かれます。
母を主役にしたドラマとその息子を主役にしたドラマが繋がっているように見えるのが、この二作の魅力です。
ヘチはトンイの息子の話?
「ヘチ 王座への道」を見ていると最初に持つ疑問が「このヨニングンは、トンイの息子なの?」という点だと思います。
もちろん史実でもドラマでも「ヘチ」の主人公ヨニングン(延礽君)はトンイのモデル 淑嬪崔氏の息子。のちの21代王・英祖です。
ヨニングンはどんな立場の王子だったのか
延礽君(ヨニングン)の家族関係と立場を整理すると次のようになります。
- 父:粛宗(19代王)
- 母:淑嬪崔氏(トンイのモデル)
- 異母兄:景宗(20代王)
- 異母弟:延齢君
粛宗には複数の息子がおり、その中で特に可愛がられたのは末子の延齢君だったと伝えられます。延礽君は冷遇されていたとまでは言えませんが「溺愛された息子」ではありませんでした。
ドラマ「トンイ」では、クム(延礽君)が粛宗から大変可愛がられていますが、これはあくまで演出です。
史料にある「末子延齢君を溺愛した」というイメージが、物語の中でクムに置き換えられた形になっているようです。史実とは切り分けて考えた方がいいでしょう。
ヘチで描かれるヨニングンと史実
「ヘチ 王座への道」のドラマ開始時点ではすでにトンイ(淑嬪崔氏)は亡くなっており画面に登場しません。その代わり
- 母の出自ゆえに向けられる偏見や蔑視
- 王子でありながら「正統な後継」と見なされない負い目
- それでも腐敗した政治や派閥争いに立ち向かおうとする姿
が丁寧に描かれます。
ヨニングンの皮肉屋な振る舞いや、軽口の陰に隠れた苦しみはドラマならではの演出ですが
- 派閥争いのなかで世弟に冊立されたこと
- のちに長い治世を送る英祖となること
といった大枠は史実と一致しています。
家系図で見る トンイ・ヘチ・イサンの繋がり
三作品の関係を理解するには史実の王位継承の流れで押さえるのが分かりやすいです。
そこで下の家系図では史実の「粛宗→景宗→英祖→思悼世子→正祖」という王位継承の流れをまとめました。

図:トンイ・ヘチ・イ・サンの家系図(粛宗〜正祖) 19代王・粛宗の息子が景宗と英祖(延礽君)、英祖の孫がイ・サンの主人公・正祖という関係が一目で分かる図です。
この家系図を見ると、「トンイ」は粛宗の側室で英祖の母。「ヘチ 王座への道」は英祖こと延礽君の若いころ。「イ・サン」は英祖の孫・正祖の物語」という三作品の位置づけがはっきりしますね。
ドラマの主人公との関係
この家系図を三作品の主人公に当てはめると次のようになります。
- トンイ(ドラマ「トンイ」主人公)
…史実の淑嬪崔氏。粛宗の側室で英祖の母。 - ヨニングン/英祖(ドラマ「ヘチ 王座への道」主人公)
…史実の英祖。トンイの息子で景宗の異母弟、のちの21代王。 - イ・サン/正祖(ドラマ「イ・サン」主人公)
…史実の正祖。英祖の孫で、思悼世子の息子。
それぞれのドラマでの描き方や事件の細部は違っていますが。この親子関係と王位継承の流れは共通です。
史実から見るトンイ(淑嬪崔氏)と英祖
ドラマだけでなく、史実を押さえておくと、トンイとヨニングン(英祖)の描写がよりわかりやすくなります。
トンイ(淑嬪崔氏)の史実
- 粛宗の側室の一人で、「淑嬪」の位にあった崔氏
- 控えめで慎み深かったとされる
- 英祖の母となったことで、後世の評価が高まった
- 出自については諸説あり、ドラマのように「賤民出身」と断定できる史料はない
一方、ドラマ「トンイ」のチョン・ドンイは「賤民出身」という大きなハンデを抱えていますが。明るく行動的で、どこか朝ドラの主人公のようなキャラクターとして描かれています。陰謀の渦中に自ら飛び込み危機をひっくり返していく姿は、記録に残る淑嬪崔氏像とはかなり印象が違います。
これは現代のドラマのヒロインとして視聴者に届きやすい形にふくらませた結果です。
史実の淑嬪崔についてはこちらで詳しく解説しています。
淑嬪崔氏(スクピンチェシ) トンイのモデルの実話
英祖(延礽君)の史実
- 粛宗の息子で、景宗の異母弟
- 在位期間が長く、制度の整備や学問奨励などに力を入れた王として知られる
- 老論・少論の激しい派閥争いに翻弄され、その調整と統制に心を砕いた
- 思悼世子への対応のように厳しすぎる面もあり、その評価は「有能だが苛烈な面もあった」という見方が一般的
- 母の身分に由来する出自コンプレックスを抱えていたと解釈されることが多い
「ヘチ 王座への道」はこの史実の英祖の若い頃に「トンイ」から続く賢く思いやりのあるキャラクター設定やドラマオリジナルの事件を加えた作品といえます。ヨニングンの性格や具体的な出来事は創作を含みますが、「派閥争いのなかで世弟に立てられ、やがて即位する」という流れは史実と共通しています。
史実の延礽君についてはこちらで詳しく紹介しています。
延礽君(ヨニングン)とは?トンイの息子で英祖になった王子の実話と家系図
三作品は脚本家が同じだから生まれる一体感
「トンイ」「ヘチ 王座への道」「イ・サン」は、放送局や演出家はそれぞれ違いますが、三作品とも脚本を手がけたのはキム・イヨンです。
同じ脚本家が、同じ王家を親子三代にわたって描いているため、作品が違っても世界観や同じ名前の人物の性格設定に大きな差がありません。
- 特定のキャラが権力とどう向き合うか
- 民をどのような目線で見るか
- 「王であることの孤独」をどう表現するか
といったテーマに一貫した芯が感じられます。
三作品を続けて見たときの安心感
三作品を見比べると、「同じ人物なのに性格がちぐはぐ」という違和感が少ないことに気づきます。
粛宗の描かれ方
別作品の「テバク ~運命の子~」では、脚本家が「ペク・ドンス」と同じでハードな世界観になっています。そのため粛宗も怖くて荒々しく感情表現の激しい王として描かれます。
「トンイ」の優しく思いやりのある粛宗とは別人です。2つのドラマを続けてみると「同じ粛宗なのに印象がかなり違う」と感じる人もいるのではないでしょうか?
英祖の描かれ方
歴史の流れ的には「ヘチ」と「イサン」の間に「大王の道」が入ります。「大王の道」は「イサン」と同じイ・ビョンフンがプロデュースした作品です。でも監督や脚本家が違うため「大王の道」に登場する英祖は厳格さや冷酷さが前面に出た人物像となってます。
そのため、そのイメージを持ったまま「ヘチ」や「イ・サン」を見ると「ここまで別人として描いてしまっていいのか」と思うほどギャップを覚えることがあります。
でも「トンイ」「ヘチ」「イ・サン」の三作品に限っていえば、
・粛宗は感情の起伏はあっても根本的には現実的で理解力もある王
・延礽君/英祖は、ひねくれて見えても頭が切れて民を思いやる人物
という芯の部分に、大きなブレがありません。トンイで見た粛宗がトンイを失い歳をとったのがヘチの粛宗。ヘチで見た若いヨニングンが年を重ねたのがイ・サンの英祖。と考えても大きな違和感はありません。
「同じ脚本家が同じ王家を三世代にわたって描いている」ということを知っておくと三作品を続けて見たときの繋がりがより感じやすくなるのではないでしょうか。
トンイ・イ・サン・ヘチの繋がり
トンイと英祖の繋がり
「トンイ」のモデル・淑嬪崔氏は粛宗の側室ですが。ドラマ上では賤民の宮女出身の設定です。
「ヘチ 王座への道」で描かれるヨニングンも「母の地位が低い王子」という設定を受け継いでいます。
そのため「卑しい王子」と言われて周囲からは見下され。その違和感や疎外感が、英祖の性格づけの重要な要素になっています。
英祖・思悼世子・正祖の繋がり
イ・サンの主人公・正祖は英祖の孫。思悼世子の息子です。
「ヘチ」と「イ・サン」にはどちらにも英祖が登場するのですが、描いている時期はかなり離れています。
・ヘチ 王座への道
…景宗の時代〜英祖即位直後の若い頃の英祖。1728年のイインジャの乱がラスト。
・イ・サン
…英祖がかなり年老いてからの時期。その後の正祖の時代。ドラマは1762年の思悼世子の死からスタート。
そのためヘチで描かれた事件が、そのままイ・サンのストーリーに影響しているわけではありません。
それでも三作品を続けて見ると英祖の人物には共通点が見えてきます。
イ・サンの英祖は厳しくも頭の回転が早く、すべてを見通しているような怖さを持つ祖父として描かれますが、その根っこの部分はヘチのヨニングンにも通じています。皮肉屋で不良っぽく振る舞いながらも、政治に対して鋭く、民を見捨てきれない性格です。
ヘチのヨニングンが歳を重ねていった先にイ・サンの英祖がいる。そう思いながら見ると、二つのドラマは直接つながってはいなくても「同じ人物の若い頃と老年期」を別々の作品で見ているような感覚になってきます。
視聴順のおすすめ
三作品はどの順番で見ても楽しめますが、目的別におすすめの並べ方があります。
歴史の流れを重視するなら
トンイ → ヘチ 王座への道 → イ・サン
史実の時系列に近い順番で、
トンイ
…賤民出身(ドラマ設定)の宮女が、英祖の母となるまで
ヘチ 王座への道
…トンイの息子ヨニングンが、派閥争いのなかで世弟となり、英祖として即位するまで
イ・サン
…英祖の孫・正祖が、祖父の時代の影を引き継ぎながら改革を進める姿
という流れで、王家三世代の歴史を追うことができます。
ドラマとして入りやすい順番で楽しむなら
イ・サン → トンイ → ヘチ 王座への道
「イ・サン」はロマンスや宮廷ドラマとしての要素が多く、初見でも入りやすい構成です。イ・サンから入り、
・この王様のおじいさんが英祖
・その母がトンイ
という関係をあとから知る流れもあります。
イ・サンのあとに「トンイ」で祖母の世代にさかのぼり、最後に「ヘチ 王座への道」で若き日の英祖を見ると、それぞれのドラマで描かれた場面が頭のなかでつながっていきます。
「イ・サンで抱え込んでいた悩みは、ヘチのヨニングンの決断から始まっていたのか」と逆算しながら見るのも、この三作品ならではの楽しみ方です。
まとめ
「ヘチ 王座への道」と「トンイ」「イ・サン」は制作も雰囲気も違いますが、粛宗-英祖-正祖へと続く一つの王家の物語としてつながっています。
トンイは英祖の母の世代、ヘチは若き日の英祖、イ・サンは孫の正祖の視点。
血筋と親子関係を意識して見ると、三作品それぞれの場面が結びついて朝鮮王朝史の流れも自然と頭に入ってくるのではないでしょうか。
トンイ・ヘチ・イサン Q&A
Q1 トンイはヘチ 王座への道に登場する?
ヘチ 王座への道の本編に、トンイ本人が登場する場面はありません。物語の時間軸ではすでに亡くなっているためです。
ただし、ヨニングンの出自や立場を語るうえで、「身分の低い母から生まれた王子である」という背景は非常に重要です。トンイを見たあとでヘチ 王座への道を見ると、ヨニングンが受ける偏見や冷たい視線の意味が、よりはっきり伝わってきます。
Q2 三作品のつながりは史実通りか
親子関係と王位継承の大枠は史実通りです。
・淑嬪崔氏(トンイ)が英祖の母であること
・英祖が粛宗の息子で、景宗の異母弟であること
・英祖の孫が正祖(イ・サン)であること
といった点は史料に基づいています。
一方、トンイの出自が賎民であること、宮廷事件の具体的な経過などはドラマ側の創作です。史実と違う・不明な点は「これはドラマの設定」と意識して楽しむと混乱しにくくなります。
Q3 歴史の知識がなくても楽しめる?
粛宗→景宗→英祖→正祖という王位の流れと、トンイ=英祖の母という最低限の情報だけ知っていれば、三作品は十分楽しめます。
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