清王朝の康煕帝時代は、清が大きく発展した時代です。その康煕帝時代には皇子たちが後継者の座を巡って争う大きな事件がありました。
その争いを 九王奪嫡 といいます。
この出来事では多くの犠牲者が出ました。それだけにドラマにもなりやすい事件です。
九王奪嫡の簡単な説明と、その事件をもとに作られたTVドラマを紹介します。意外なドラマもこの事件をもとに作っていますよ。
後継者争いに加わった九人の皇子たち
九王奪嫡で後継者争いに加わったのは次の皇子たちです。
大阿哥(第一皇子) 胤禔(いんし)
二阿哥(第二皇子) 胤礽(いんじょう):皇太子
三阿哥(第三皇子) 胤祉(いんし)
四阿哥(第四皇子) 胤禛(いんしん):後の雍正帝
八阿哥(第八皇子) 胤禩(いんし)
九阿哥(第九皇子) 胤禟(いんとう)
十阿哥(第十皇子) 胤䄉(いんが)
十三阿哥(第十三皇子) 胤祥(いんしょう)
十四阿哥(第十四皇子) 胤禵(いんてい)
阿哥=王子
阿哥(あか)とは「兄弟」という意味。満洲語の「アグ(age)=男兄弟」を漢字で表現したものです。清朝では「皇子」の意味で使われました。日本語訳では「第一皇子」「第二皇子」と訳されます。
九王奪嫡のおおまかな流れ
胤礽が皇太子に決まってから雍正帝が即位するまでの経緯を年表形式でまとめるとこうなります。
1678年(康煕17年)二阿哥 胤礽 が皇太子になる。
1708年(康煕47年)皇太子 胤礽が廃位される。
大阿哥 胤禔 が「占い師が八阿哥が大物になる相だと言っていた。廃太子を殺したいなら父が手を下すまでもありません」と康煕帝に報告。
三阿哥 胤祉が大阿哥 胤禔が廃太子 胤礽を呪っていたと報告。
大阿哥 胤禔 が廃太子 胤礽を殺そうとした罪で爵位を剥奪、幽閉される。
八阿哥 胤禩 も胤礽を殺そうとした罪で爵位を剥奪、幽閉されそうになるが。大臣や九、十、十四阿哥たちが懇願して処分が軽くなる。爵位の剥奪だけで許される。
ただし、八阿哥 胤禩は康熙帝の信頼を失う。
1709年(康熙48)二阿哥 胤礽が再び皇太子になる。
1712年(康熙51)皇太子 胤礽 が再び廃される。自宅幽閉。
八阿哥派の中から十四阿哥 胤禵を次の皇帝にという動きがおこる。
四阿哥 胤禛も皇帝の座を目指して活動。
1722年(康熙61年)康煕帝死去。四阿哥 胤禛が即位。
九王奪嫡が描かれるドラマ
九王奪嫡では多くの皇子たちが地位を失いました。若い皇子たちが争い、次々に犠牲になる。という衝撃的な展開から何度もドラマ化されました。ドラマの中に「九王奪嫡」という言葉は出てきません。でもストーリでは皇子たちの争いや葛藤が再現されています。
日本で見られるドラマを紹介しましょう。
宮廷女官 若曦(じゃくぎ)
女性の小説家・桐華が書いた小説「歩歩驚心」が原作。
中国でも大人気になったドラマです。中国では若曦~宮廷の諍い女~如懿伝、瓔珞 へと続く清朝ドラマブームがありました。その清朝ブームを作った作品かもしれません。
現代のOLが清の時代にタイムスリップ。王子たちの争いに巻き込まれる。というストーリー。
皇位争いは四阿哥 胤禛と八阿哥 胤禩の対立が中心。ヒロイン・若曦は最初は八阿哥 胤禩と親しくなりますが別れて四阿哥 胤禛と恋仲に。人畜無害な十三阿哥はお友達。
八阿哥 胤禩には九・十・十四阿哥が味方して。四阿哥と十四阿哥は兄弟だけど仲が悪い。という流れは歴史の「九王奪嫡」と同じ。
ドラマでは康煕帝は十四阿哥を後継者にしたけれど四阿哥がそれを奪った事になってます。清時代にはそういう噂もあったので、そちらの説を採用したのでしょう。というか現代でも四阿哥の皇位簒奪説を信じてる人もいるようです。
歴史上の事件や俗説を取り入れてそれにうまくヒロインを絡ませているところは上手いと思います。
原作小説も日本語版が発売されています。桐華はマニアックな歴史小説家ではなく、恋愛小説が得意な作家です。現代劇も時代劇も書けるという珍しい作家です。
麗・花萌ゆる8人の皇子たち
「韓国ドラマなのにどうして?」
と思うかもしれません。
実は「歩歩驚心」の舞台を高麗にして韓国でドラマ化したのが「麗・花萌ゆる8人の皇子たち」なのです。
韓国版の漢字名は「月之戀人-步步驚心:麗」。
歴史の知識のある現代のヒロインが王朝時代にタイムスリップ。宮中関係者に生まれ変わるというストーリは同じ。
高麗版「麗」と清朝版の「歩歩驚心」の登場人物はこのように置き換わってます。
解樹(ヘ・ス)/高夏真= 馬爾泰・若曦/張曉
四王子 王昭(光宗、ワンソ)= 四阿哥 胤禛(雍正帝)
八王子 王旭(ワン・ウク)= 八阿哥・胤禩
太祖 王建(ワン・ゴン)= 康煕帝
王太子 王武(ワン・ム)= 皇太子・胤礽
三王子 王堯(ワン・ヨ)= 大阿哥・胤禔
十三王子 王伯牙(ペガ)= 十三阿哥・胤祥
十四王子 王貞(ワン・ジョン)= 十四阿哥・胤禵
高麗王子の順番は諸説ありますが、そこが「歩歩驚心」に合わせやすいメリットにもなりますね。
他の皇子や登場人物も高麗時代の人物に置き換えています。
当たり前ですがストーリーの流れは「歩歩驚心」と同じ。麗の登場人物が歴史上の高麗の人物と性格や行動が違うのはそのため。
でも。昭(光宗)と胤禛(雍正帝)の行いには似てるところがありますし。太子がいてそれに対抗する王子もいてという条件は似ています。たしかに共通点が多いですね。
ビジュアル的に日本人に馴染みやすのは「麗」かもしれません。もちろん「麗」がそのまま高麗の衣装や見た目を再現しているのではありません。実際よりも豪華に作ってありますけれどね。
宮廷の茗薇(めいび)
「若曦」と同じスタッフが造ったドラマ。中国の女性作家・金子の書いた小説「夢回大清」が原作。
歴史好きな現代女性が清朝の康煕帝時代にタイムスリップして王子たちと恋愛する。皇位争いの中心も四阿哥 胤禛 と 八阿哥胤禩。という内容は「歩歩驚心」とかなり似ています。
でも原作小説は「歩歩驚心」が2005年発表に対して、「夢回大清」は2004年から連載が始まって2007年に完結した物語。どちらが先とも言えません。お互い意識はしたでしょうし、著作権がどうなってるのかよくわからない国ですし、もともと中国ではタイムスリップものは多いので誰でもこういうネタは思いつくのでしょうね。
違うのは「夢回大清」では現代と過去の登場人物がシンクロしていること。現代人のヒロインの知人のそっくりさんが清朝にもいます。嫌な上司が過去にもいる。というところが面白いです。
他のドラマではあまり活躍しない十三皇子 胤祥がヒロインの相手なのも珍しい。十三皇子と対立するのは十四皇子。有名人の影に隠れて裏方的活躍をした人にスポットを当たるのもおもしろいと思います。
「麗・花萌ゆる8人の皇子たち」のペガがヒロインの恋愛相手だったらどうなったか?兄たちの下で弟たちも張り合ってるみたいな。ザックリ言うと(ザックリしすぎですが)そんな感じです。
花散る宮廷の女たち
こちらはタイムスリップものではなく年貴妃が主役の時代劇。
廃位された皇太子・胤礽(いんじょう)がヒロインの相手という異色の組み合わせ。胤礽のダメ皇子ぶりが印象深い。いい人のふりをして腹黒いのが 四皇子 胤禛(雍正帝)。他のドラマでは後継者争いをする八皇子 胤禩が最後までいい人なのも他のドラマとは違うところ。
年貴妃といえば「宮廷の諍い女」では悪役にされて中国の歴史ファンからブーイングが出てました。歴史上の年貴妃には悪い評判はないので「宮廷の諍い女」よりはこちらのドラマのほうがイメージに近いかも。
歴史上の 年貴妃と皇太子 胤礽は関係はありませんし年貴妃も騙されて胤礽と結婚したわけではありません。
でも四皇子 胤禛の「何かを考えていても他人に気づかせないところ」は歴史上の胤禛のイメージに近いかもしれません。
「宮廷の諍い女」は「九王奪嫡」が終わった後の雍正帝の後宮の話。女の戦いがくりひろげられる「大奥もの」なのでこちらも面白いです。
歴史上の事件「九王奪嫡」の詳しい説明はこちら。
・康熙帝の皇子たちの激しい後継者争い「九王奪嫡」
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