ドラマ『ホ・ジュン』では信城君の背中にできた腫れ物を治すため、ホ・ジュンがヒルを使う場面があります。「本当にそんな方法があったの?」と思うかもしれません。
でも実際の朝鮮王朝でも腫れ物の治療にヒルを使った例はありました。ただしホジュンが王子を治療したのは本当ですが、信城君かどうかは不明です。
この記事で分かること
- ホ・ジュンが史実で治療した王子と病気
- 信城君をヒルで治療したことがあるのか?
- 『中宗実録』に残る実際のヒル治療とは
- ドラマのヒル治療と史実のヒル治療の違い
『ホ・ジュン』では信城君をヒルで治療する
ドラマ「許浚(ホ・ジュン)」では信城君の背中にできた腫れ物が悪化して膿が奥にたまって治療が難しくなりドジがホ・ジュンに治療を任せます。
悪化した腫れ物を直すためにホジュンが選んだのがヒルを使った治療でした。患部にヒルをつけて血や膿を吸わせようとするのです。
王子の体にヒルをつけるのですから当然、周囲の者は驚きます。見た目にもかなり強烈です。
そこでホ・ジュンとヤン・イェスは昔の中宗も腫れ物の治療にヒルを使ったことがあると説明して治療を認めてもらいました。
中宗は本当にヒル治療をしていたのでしょうか?ホジュンも信城君の治療にヒルを使ったのでしょうか?
なお、『ホジュン~伝説の心医~』と『ホジュン~宮廷医官への道~』では若干ストーリーが違いますが、どちらにもヒル治療の場面が出てきます。登場話は以下の通り。
| 作品 | ヒル治療の話数 |
|---|---|
| 『ホジュン~伝説の心医~』 | 第54話。第55話で回復 |
| 『ホジュン~宮廷医官への道~』全64話版 | 第55話。 |
| 『ホジュン~宮廷医官への道~』全69話版 | 第59~60話。 |
まずは歴史上の許浚(ホ・ジュン)も信城君を治療したのかみてみましょう。
ホジュンが信城君を治療したのは本当?
許浚(ホ・ジュン)は史実でも王子を治療した実績があります。
許浚が治療したのは天然痘
許浚が王子を治療したのは1590年の冬です。このとき王子が患ったのはドラマに出てくる背中の腫れ物ではなくて痘瘡(天然痘)でした。
その少し前に王室では天然痘で王子を亡くしていました。当時は天然痘に薬を使うことを嫌う風習があって医官たちは十分な治療ができませんでした。
宣祖はそのことを後悔していたようです。そこで1590年に別の王子が天然痘になると今度は許浚に薬を使って治療するよう命じました。
許浚はこのときのことを著書の『諺解痘瘡集要』に書いています。
「歲在庚寅之冬, 王子又染此疾. 聖上追憶往事, 特命臣施藥救療」
出典:許浚『諺解痘瘡集要』
「この病気」が痘瘡でした。ところが治療を始めても王子の状態はすぐにはよくなりません。症状が次々に現れて周囲からは「薬を使ったせいではないか」という声まで出てきました。
それでも宣祖は治療を続けさせて許浚は三回薬を使って王子は危険な状態を脱して数日後には回復しています。
王子の病気を治した功績によってホ・ジュンは昇進しました。
本当に王子は信城君?
でも、許浚が治療した王子が誰なのかは記録にありません。
信城君だったという説はありますが、光海君だった可能性もあって誰だったのかはっきりしていません。
さらにホ・ジュンが治療した王子の病気は腫れ物ではなく、痘瘡(天然痘)でした。
ネット上では許浚は信城君の治療をしたと書いてあることが多いのですが、おそらくはドラマの影響でしょう。
なのでドラマ「ホジュン」でホ・ジュンが信城君の腫れ物を直したのは事実ではないのです。
当然、ヒル治療もしてません。
中宗は本当に腫れ物にヒルを使っていた
ドラマではヤン・イェスとホ・ジュンは「中宗もヒル治療をしていた」と言ってます。
事実、朝鮮王室ではヒルを使った治療は本当に行われていました。1533年の『中宗実録』には中宗が腫れ物の治療でヒルを使ったことが書かれています。
「若腫之初發, 惡血凝滯時, 則蛭針最良」
出典:『中宗実録』中宗28年2月6日
このときの中宗の患部は硬く盛り上がっていて、医官たちは内部に血がたまっていると考えました。そこでヒルをつけて血を吸わせています。治療後は中宗自身も硬かった部分が小さくなったと話していたので効果があったと感じたようです。
でも、このときの治療はヒルだけで治ったわけではありませんでした。患部を鍼で開いて血や膿を出して、必要があれば膏薬も使っています。ヒルは腫れ物治療の中で使われる方法の一つでした。
「深い膿にはヒルしかない」は本当?
ドラマではホジュンは「深い膿を直すのはヒルしかない」と言っています。
でも『中宗実録』に登場する医官たちは真逆の事を言ってます。
「ヒルが吸えるのは皮膚に近いところで、深いところにある膿や血には届かない」
というのです。
当時の医官たちは、腫れ物ができたばかりで皮膚に近いところに血がたまっている場合にはヒルを使う意味があると考えていました。
でも膿が奥にたまってしまった場合は、ヒルをつけてもそこまで口が届きません。
ヒルは表面にあるものしか吸えないのです。
深い部分はヒルを使わないとダメ。というのはドラマの設定で。できればヒルは使いたくないが、ヒルを使わなければいけない場面を作るための条件設定なのでしょう。
患部を切開して奥を露出させてそこをヒルを吸わせれば可能かもしれませんが。ドラマの描写では肌の上にヒルを乗せてるだけに見えます。そこは撮影上の技術的な限界もあるのでしょう。
現代でもヒルは医療に使われている
ヒルを使う治療と聞くと昔の民間医療という印象を受けますが、現在でも医療用ヒルは使われています。
たとえば、切断した指をつなぐ手術や皮膚を移植する手術の後、血がうまく静脈へ戻らず患部にたまることがあります。そうした場合にヒルをつけて血を吸わせ、患部にたまった血を減らすことがあります。
ヒルの唾液には血を固まりにくくする成分が含まれているため、ヒルが離れた後もしばらく血が出続けます。この性質を治療に利用しているわけです。
一方、皮膚の奥に膿がたまっている場合には、現在でもヒルは使いません。必要なら患部を切って膿を出します。
「深い膿をヒルに吸わせる」という使い方は、現代医学から見ても良い方法とはいえないのです。
ちなみに、ヒルの唾液には麻酔成分があるので、ヒルに噛まれても痛くはないようです。そのため、田畑や山で作業していても知らない間に吸われていることもあるようです。
ドラマではヒルに吸われた王子が騒いでいますが、噛まれて痛いからと言うより、見た目の気持ち悪さで騒いでいるのでしょう。もっとも王子が気絶したのはホジュンも言ってる通り高熱のせいなので、ヒルが悪いわけではありません。
「馬を倒すほど血を吸うヒル」は本当?
ドラマではヒルが「馬を倒すほど血を吸う」といった説明が出てきます。ヒルが馬や牛の血を吸うこと自体は本当で、昔の中国の本草書にも牛や馬、人の血を吸うと書かれています。
でもだからといってヒルが馬を倒すほど血を吸うというと、そこまでは吸いません。一匹のヒルが一度に吸う血の量には限りがあり、数匹が健康な馬に取りついただけで倒れるとは考えにくいでしょう。
ヒルが離れた後もしばらく出血が続くため、多数のヒルに吸われれば失血が続く可能性はあります。
それより恐いのはヒルが伝染病や細菌を運ぶことで。ヒルに噛まれて死亡した場合は血を吸われたことよりヒルが運んだ病原菌が原因なのかも知れません。
とはいえ、ドラマのセリフはヒルの強さを印象づけるための誇張と考えた方がよさそうです。
ドラマのヒル治療はどこまで本当?
ドラマで出てきた演出と、史実と比べるとこうなります。
| ドラマの内容 | 史実では |
|---|---|
| ホ・ジュンが王子を治療する | 記録あり |
| その王子が信城君 | はっきりしない |
| 信城君が腫れ物になる | 記録なし |
| ホ・ジュンがヒルを使う | 記録なし |
| 中宗のにヒルを使った | 記録あり |
| 腫れ物の治療にヒルを使う | 記録あり |
| 深い膿をヒルで吸う | 浅い場合に使う |
| ヒルが馬の血を吸う | 実際にある |
| ヒルが馬を倒す | かなり大げさ |
『ホ・ジュン』のヒル治療は史実を組み合わせた話
ドラマ『ホ・ジュン』のヒル治療には実際にあった話がいくつか使われています。ホ・ジュンが王子を治療したことは事実ですし、中宗が腫れ物にヒルを使ったことも事実です。さらに牛や馬の血を吸うヒルがいることも間違いありません。
ドラマではこうした別々の話を組み合わせて、ホジュンが信城君にヒルを使ったエピソードにしています。
その際にヒルを使う理由として「深い膿だからヒルを使う」という設定を作り。ヒル治療が効果的なのをわかりやすくするために「馬を倒すほど血を吸う」といった説明が加えられたと考えられます。
特に面白いのはドラマでホ・ジュンたち中宗の前例を持ち出しているのに、その『中宗実録』では「深いところにはヒルは届かない」と説明していることです。
王の腫れ物の治療にヒルを使ったとのは事実ですが、ドラマでホジュンが使った理由とは違うのですね。

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