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ホンタイジが後金2代ハン(ヌルハチの後継者)になった理由

後金 1.1 清の皇帝

ヌルハチは女真(女直)を統一して後金国を建国しました。

ところが1626年8月11日。ヌルハチは後継者を決めないままにこの世を去りました。

王族会議が行われ第2代の後金のハン(君主)になったのはホンタイジ。

ホンタイジは後に国名を大清(ダイチン)に変えて皇帝に即位します。

ドラマなどでは、「本当はドルゴンが後継者に決まっていたのにホンタイジがヌルハチの遺言を握りつぶして王になった」とか。歴史ファンの間でもホンタイジの陰謀説が語られることが多いです。

でも当時の記録をよく見ていると打倒な結果に収まったように思えます。

なぜホンタイジが第2代後金のハン(君主)になったのか紹介します。

 

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アバハイの殉葬

ヌルハチの死の翌日。

ヌルハチの遺言で大福普(正妻)のアバハイが殉葬されました。

アバハイはアジゲ、ドルゴン、ドドの生母です。名門ウラナラ家の出身。

フルン四国のウラ部はかつてヌルハチのマンジュや同じフルン連合のイェヘ部と並ぶ、女真社会の大国でした。国が滅びて八旗に編入されたとはいえ、ウラ部の旧王族や貴族はかなり残っています。最後まで抵抗して有力者の多くが亡くなったイェヘ部とは違います。ウラナラの力はあなどれません。

ヌルハチはアバハイとウラナラ氏の影響力が大きくなるのを恐れたのかもしれません。

ヌルハチはホンタイジを有能と認め、可愛がっていました。長男チュイエン、次男ダイシャンの後継者育成で失敗し。ホンタイジには期待していたようですが。ハンといえども後継者を指名する権限はありません。ベイレたち有力者の会議で選ばれるのです。

ヌルハチができるのは自分の死後、アバハイを殉葬させてホンタイジが即位しやすい条件をつくるところまでです。

会議で選ばれるかどうかはホンタイジとベイレ次第です。

 

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ヌルハチの後継者選び

ヌルハチは生前、息子たちの間で権力争いが起こるのを避けるため8人のベイレと大臣が話し合い、8人のベイレの中から1人を選んでハン(君主)すると決めました。

ハン(君主)の候補者達

ヌルハチが決めたベイレはこのとおり。
ベイレとは満洲語で部族の王の意味ですが。後金では王族に与えられる称号になりました。親王みたいな意味です。

四大ベイレ
ダイシャン:ヌルハチとハハナジャチン(トゥンギャ氏)の子
マングルタイ
:ヌルハチとグンダイ(フチャ氏)
の子
アミン  
:ヌルハチの弟

ホンタイジ
:ヌルハチとモンゴジェジェ(イェヘナラ氏)の子

四小ベイレ
アジゲ :ヌルハチとアバハイ(ウラナラ氏)の子
ドルゴン:ヌルハチとアバハイ(ウラナラ氏)の子
ドド  :ヌルハチとアバハイ(ウラナラ氏)の子
ジルガラン:ヌルハチの弟シュルハチの子)

とくに四大ベイレはハンを補佐して国の政治を行っていた王族なので有力候補です。

アジゲ、ドルゴン、ドドはベイレでヌルハチの正妃の息子ですがハンには若すぎるので除外。

アジゲ、ドルゴン、ドドの兄弟でヌルハチが持っていた正黄旗、鑲黄旗を相続しました。黄旗は最も有力な軍団です。ヌルハチがアバハイを殉葬させた理由のひとつがアバハイが2旗の所有者のようになってしまうことだったかもしれません。

ジルガランはヌルハチの弟の子なので除外。
アミンも四大ベイレですがヌルハチの弟なので優先順位は低いです。

候補として残るのは四大ベイレ正妻の子
ダイシャン、マングルタイ、ホンタイジの三人です。

3人の有力候補

次男ダイシャンは八旗のうち2つの旗(正紅旗、鑲紅旗)を所有。ヌルハチ晩年にはドゥドゥが鑲紅旗を所有。ダイシャンは正紅旗だけに減らされたとも言われますが。ドゥドゥはダイシャンの同母兄の息子。トゥンギャ氏系が正紅旗、鑲紅旗を所有したので有力な勢力には違いありません。

ダイシャンは戦場で功績をあげ多くの王侯貴族と親交をもち多くの兵を配下に持っています。王子の中で最も力を持っていたのはダイシャンです。でもアバハイとの不適切な関係が問題になったこともあり、あまり評判がよくありません。

八男ホンタイジが所有したのは正白旗。ドゥドゥが鑲紅旗に移動になるとホンタイジが2つの旗(正白旗、鑲白旗)を所有しました。ヌルハチからも可愛がられ、多くの王侯貴族と親交があります。

ヌルハチの五男マングルタイもハンの座を狙っていました。でもマングルタイ、デゲレイ兄弟は性格が荒く、マングルタイは生母グンダイの死に加担しているともいわれます。やはりハンにするには不安です。

次のハンに求められる人物像

遊牧・狩猟民族の国は独裁を嫌います。ハンに絶対的な権力はありません。

意外かもしれませんが遊牧民国家のハン(君主)よりも中華王朝の皇帝のほうが独裁者です。

ヌルハチはハンに権力を集め。部族長から力を奪い、ヌルハチ家(アイシンギョロ家)がトップに立つ国を作りました。

その結果。後金が建国されましたがヌルハチは死の半年前。寧遠城の戦いで大敗北。後金軍は大きな被害をだしました。ヌルハチのやり方に批判が集まります。ヌルハチは晩年、アバハイに軍事や政治のことも相談していました。これは想像ですが「ハン(ヌルハチ)をそそのかしたのは大福普(アバハイ)だ」という批判もあったかもしれません。

この時期、満洲地方は不作で食糧難に陥っていました。明との交易も途絶え経済的にも苦しくなっていました。

後金の有力者達は強権的なハンにはもうついていけない。
次のハンには権力を集めないようにしたい。

と思ったでしょう。

そして次のハンに求められるのは戦場で強いだけの戦士ではありません。皆の意見を聞きこの苦境を脱することできる人です。

ベイレたちの思惑

遊牧民社会は年長者の発言力が強いです。ダイシャンはヌルハチの息子の中では最年長です(長男チュイエンは既に死亡)。

武力をもち年長者のダイシャンがハンになるとヌルハチ以上の独裁者になるかもしれません。彼の素行もよくありません。

ベイレたちはダイシャンにだけはハンになって欲しくないと思ったでしょう。

反ダイシャン陣営が支持したのが四大ベイレの中で最年少のホンタイジ。正妃の息子で実戦での実績もあります。ダイシャンのような不祥事は起こしていません。ヌルハチ存命中から「ホンタイジ(モンゴルでは王侯貴族の称号)」の名で呼ばれるようにヌルハチからも可愛がられていました。撫順作戦を考案したようになかなかの知恵者です。

でも四大ベイレの中で最年少なので実は発言力が低いです。

もちろんホンタイジも支持を集めようと働きかけたでしょう。

反ダイシャン陣営はダイシャンの息子ヨトとサハリャンを味方に取り込みました。ダイシャンはアバハイとの関係を噂されたとき、勝手な思い込みから噂を流したのは息子だと思って処罰しようとしました。息子からも恨まれていたのです。

ベイレ会議での駆け引き

ベイレ会議が始まるとホンタイジはダイシャンを批判。

ヌルハチが生きていたころダイシャンは大福普(アバハイ)と不適切な関係にあると噂になりました。ダイシャンは領地を巡ってヌルハチと対立したこともありました。

ホンタイジはこの問題をとりあげてダイシャンを批判。

マングルタイに対しては「父を喜ばせるために生母を殺害した」と批判しました。

マングルタイが本当に生母グンダイを殺害したかわかりません。もしそうだとしてもヌルハチの命令のはずです。もともとマングルタイは気性が荒いです。ホンタイジはあえてこの場でマングルタイを批判する材料に使ったのでしょう。

ダイシャンの息子ヨトとサハリャンもベイレたちに向かって「ホンタイジがハン(王)を継ぐべきです」と支持をよびかけました。もともとアバハイとの関係で評判が悪くなっていたダイシャンは息子たちの説得をうけてダイシャンがハンになるのを断念。ホンタイジ支持にまわりました。ホンタイジとヨトとサハリャンたちの間に何らかの取引があったのでしょう。

有力者のダイシャンとホンタイジが協力すればマングルタイや他のベイレに対抗できる力はありません。

最終的にはベイレたちの会議で支持を多く集めたホンタイジがハンになりました。

難問山積

現代の私達から見るとホンタイジは独裁者のイメージが強いです。

でも後金になったばかりのころは権力の弱いハンでした。ベイレ達にとっては力の弱いハンが都合がいいからです。

ホンタイジはハンですが四大ベイレの中では最年少。年長者の意見が尊重されるベイレ会議ではあまり発言力が強くありません。

正月の儀式でもハンなのに他の四大ベイレと並んで座る屈辱を味わっています。
普通の王朝なら皇帝(王)だけが臣下の前に座ります。でもホンタイジが即位してしばらくは四大ベイレが一緒に並んで座っていまいた。臣下からみると誰がハン(王)かすぐにはわからなかったでしょう。

しかもヌルハチが招いたこととはいえ明、モンゴル、朝鮮に包囲されて周りは敵だらけ。国内では不作で食糧難に苦しんでいます。明との交易が止まり収入も激減しました。難しい時期にハンになりました。この状況で結果を出さないといけません。

ところがこのあとホンタイジは様々な理由をつけて粛清を繰り返し、旗の取り潰しを行い3つの旗を所有して武力を集め。権力を強めました。後金包囲網をひとつずつ潰して後金をさらに大きくして。皇帝に権力が集まる中華王朝式の国「大清」を作ります。

ベイレたちもホンタイジがそこまで大きな力をもつ君主にはなると思ってなかったでしょう。したたかな君主なのです。

後の雍正帝も似たところがあります。

そういう君主はたいてい様々な噂をたてられるものなのです。

続きはこちら

・後金ハンになったホンタイジの紹介

 

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