君、花海棠の紅にあらず(原題:鬢邊不是海棠紅)は 中華民国を舞台にしたドラマ。
読み方は「きみ、はなかいどうの べにに あらず」 です。
京劇俳優と彼を支える人々の苦悩と人間関係が描かれます。
豪華な京劇の衣装もみどころですね。
ブロマンス的な男の友情というにはちょっと親しすぎる関係も話題のひとつ。
日本人の視聴者のサイトでは「BL」と表現されることもありますが、BLとはちょっと違う感じですね。
日中戦争時代が舞台になってるので日本人が悪役として描かれているのが複雑な気分です。戦争があったのは事実とはいえ、中国では日本軍は現実よりも極悪非道に描くのがお約束。
ドラマの日本兵は中国人が思いつく極悪人のイメージを日本兵の形で表現しているだけなので、このドラマも「架空世界でのできごと」と割り切るといいかもしれません。
現実には中国側にも軍閥とよばれる武装勢力がいくつもあって中国国内も混乱していました。単純な日本対中国の戦いではなかったので泥沼になってしまったのですね。
このドラマには歴史上実在した人物は登場しません。
物語のストーリに関わってくる主な登場人物をあらすじの一部を紹介します。
最終回のあらすじも紹介。ネタバレ要素があるのでご注意ください。
ドラマの背景
京劇の世界とその文化を守ろうとする人々を描いた作品。
1930年代の北平(ほくへい:現代の北京)。京劇俳優の商細蕊(シャン・シールイ)は実力はあるけど気難しい性格。劇団の中にも外にも問題を抱えていました。
一方の主人公・程鳳台(チョン・フォンタイ)は京劇には興味はありませんでした。程鳳台はふとしたことがきっかけで商細蕊に興味をもち親しくなります。2人の関係は程鳳台の妻が嫉妬するほど親密になり・・
やがて1937年。日中戦争が始まり北平が日本軍に占領されます。京劇の興行が難しくなる中。商細蕊と程鳳台も京劇を守るための苦悩が始まります。
海棠とは
タイトルにある「海棠」とは日本では「カイドウ」と呼ばれるバラ類の花。
「ベゴニア」の仲間です。
赤色~ピンク色の美しい花です。
海棠花は中国では美人の例えに使うそうです。
もみあげ(鬢邊)に赤い海棠の花を飾るのが古代中国美人のファッション。
京劇でもみあげに海棠花をつけていたらそれは「美人」を演じているのです。
原題の「鬢邊不是海棠紅」は「もみあげには海棠花の赤はない」
つまり、遠回しに京劇はもう演じられない(のか)という商細蕊たちの境遇を意味する言葉ともうけとれますね。
英語版のタイトルは「Winter Begonia」
冬のベゴニア。
なんとなく表現したいことは伝わると思います。
主要人物
登場人物はすべて架空。実在の人物やモデルになった人物はいません。
程鳳台(チョン・フォンタイ)
演:黄暁明(ホアン・シャオミン)
他の出演作 映画「大脱出2」シュー など
劇中では「程二爺」とよばれます。「爺」は地位のある男性の意味。
日本語字幕では「ニ旦那」と訳されています。
範湘兒の夫。姉の夫は北平で大きな力を持つ軍閥の「曹司令」。
程家再興のため、自分の夢を諦めて富豪の娘と結婚しました。
程鳳台にも商売の才能があります。ヨーロッパに留学していましたが父の死で帰国。幼い頃、母は自分を捨てて歌劇の道を追求しました。そのせいで程鳳台は京劇は好きではありませんでした。
ところが商細蕊と出会い、商細蕊の京劇に母の面影を見ます。それからは京劇に夢中になります。程鳳台は常に商細蕊の決定を応援しました。そして商細蕊を北平一の京劇役者に押し上げてしまいます。商細蕊のためならどんな危険にも飛び込んで行きます。商細蕊との親しさは妻の範湘兒が嫉妬するほどでした。
やがて日中戦争が始まり、北平も日本軍に占領されます。京劇を守るため、程鳳台は日本軍相手に危険な賭けにでます。その結果、程鳳台は瀕死の重傷をうけてしまいます。幸いにも商細蕊たちの助けで歩けるほどに回復しました。そして商細蕊に日本軍のいない香港に行くことを伝え汽車のチケットを渡します。
最終回。程鳳台と妻は香港に向かうため駅にいました。商細蕊が来るのを待っています。
商細蕊(シャン・シールイ)
演:尹正(イン・ジョン)
他の出演作「オリジナル・シン -原生之罪-」ルー・リー など
京劇の人気俳優。劇団・水雲楼の座長。
地方からやってきて北平で京劇を普及させるため熱心に活動しています。才能豊かな俳優です。その一方で大変な食いしん坊です。
自分の才能で今の地位を築いたプライドが高く、頑固な性格で京劇協会の会長·姜栄寿にも媚びません。一度決めたら他人の迷惑を考えずに突き進んでしまいます。そのため様々な人に迷惑をかけたり怒らせたりしています。程鳳台と出会い親しくなります。北平を占領した日本軍に対しても京劇を守るため活動を続けますが。
日本軍との戦いで瀕死の重傷をおった程鳳台をみてやけになります。そして程鳳台の家の上で歌いながら待ち続け、声も少し枯れてしまいます。
最終回。香港行きのチケットをもらった商細蕊は舞台に立ちます。駅では程鳳台が待っています。商細蕊は自分ので上演が終わると舞台挨拶もそこそこに駅に走りました。
商細蕊は程鳳台を「魂の友」と言いました。
范湘児(ファン・シャンアル)
演:余詩曼(カーメイン・シェ―)
他の出演作:「瓔珞」継皇后ホイファナラ氏 など
程鳳台の妻。気の強い東北(満洲)地方出身の女性。
劇中での呼び名は「二奶奶」。
名門の范家出身。程鳳台に一目惚れして結婚。親から多額の持参金をもらっています。程鳳台を助け、程家の再興に力を貸しました。満洲一の美人ですが「女は結婚したら家で子供を育てるべき」という古い儒教の考えの持ち主。
もともと商細蕊が起こしたトラブルのせいで商細蕊を軽蔑しています。程鳳台が水雲楼に投資するのに不満でした。ところが日本人に殺された小来の仇を討とする商細蕊の姿をみて考えが変わります。ラストでは程鳳台にとって商細蕊は必要な存在と認めます。
北平城(北京)の人々
范漣
演:米熱(ミー・ルー)
范湘児の弟。通称「范四爺」。いつも飲んで食べて遊び暮らす典型的なお坊ちゃん。ビジネスのことは分からず、いつも程鳳台に助けてもらってます。
程鳳台の計らいで水雲楼の管理人になります。
実は 鳳乙 の父親。
程美心(チョン·メイシン)
演:劉敏(リュウ・ビン)
程家の長女。程鳳台の姉。程家を助けるために曹司令の6番目の妾になりました(中華民国時代は裕福な男性が複数の妾をもつのを許されていました)。
実は曹司令の息子・曹貴修と不倫関係にあります。
劉漢雲
演:侯岩松
商細蕊の名付け親。国民党政府の委員長の右腕的な地位にいる高官ですが。裏では日本人と手を組んでいます。若い頃は清朝の役人で国のことを心配していました。西太后を怒らせたこともあります。そのときは寧九郎に救われました。清朝滅亡後は国民党政府に参加して影響力を強めていました。
曹司令/曹萬鈞
演:黒子
北平で力をもつ軍閥の一人。北平一の豪商。人々からは「曹司令」と呼ばれています。
軍隊を引き連れて移動したり、曹司令のコネで取引がうまくいったり。街中の人々から恐れられていたり。やっていることは王朝時代の諸侯(地域の支配者)と変わりません。曹司令のような人たちを軍閥といいます。
当時の中華民国では国民党が政府与党でした。でも中国がひとつにまとまっているのではなく様々な軍閥(武装勢力)がありました。
程美心の夫。程鳳台の義理の兄。程鳳台のビジネスを助けています。商細蕊とはちょっとしたトラブルを抱えています。曹萬鈞はそれほど商細蕊を嫌っていたわけではありません。
でも周囲の人々は商細蕊は曹萬鈞の怒りをかっていると噂を広め商細蕊を窮地に陥れようとします。
いつも威張っていますが、日本軍の脅迫に立ち向かうことはできませんでした。劉漢雲に兵権を奪われた後は親日派の一員になります。でも密かに反撃の機会を狙っています。
曹貴修
演:唐曾(タン・ツェン)
「曹司令」の息子。父とは仲が悪く、新しい軍隊を作ろうとしています。
程美心が好きですが、自分より父を選んだことで恨んでいます。古大犁との間に子供がいます。
京劇業界の人々
陳韌香(チェン・レンシャン)
演:檀健次(タン・ジェンツー)
京劇の人気俳優。
京劇協会会長・姜栄壽の甥。姜栄寿にはよくこき使われています。
北平では唯一商細蕊に匹敵する才能の持ち主。商細蕊も認める才能でお互いに高めあっています。
姜栄寿(ジャン·ロンショウ)
演:金士傑(ジン・シーイエ)
京劇協会(梨園行会)の会長。若い頃は有名人でした。西太后にも気に入られていました。陰険で古い考えの持ち主です。
商細蕊の才能とユニークな演義スタイルが気に入らない。いつもあら捜しをして商細蕊を陥れようとしています。
杜七(ドゥ・チー)
演:李澤鋒(リー・ザーフォン)
本名:杜洛城。北平では有名な劇作家。さまざまなアイデアをもつ天才作家です。商細蕊の才能を高く評価して彼のために劇を書いてくれます。
小来
演:李春嬡
商細蕊の身の回りの世話をする侍女。商細蕊を尊敬していましたが、日本軍に殺されてしまいます。
その他
雪之城
演:許之糯
本名は九條和馬。日本の名家・九條家の一員。4歳のときに養子になりヨーロッパに留学しました。
殺戮を好まない純粋な性格。芸術を愛する商細蕊に憧れ、彼と仲良くなりたいと思っています。日本人であること、九條家のいち員であることが商細蕊との間に溝を作っています。
坂田大佐
演:李昂
日本軍の軍人。代々九條家に仕えた家臣。
程鳳台に無理難題をおしつけてきます。
最終回のあらすじ
さてここからは最終回の紹介。
知りたくない人はとばしてください。
程鳳台は日本軍との戦いで瀕死の重傷をうけました。
商細蕊は捕まり坂田大佐に厳しく尋問されました。そして日本の歌舞伎の衣装を来て上演するなら薬を持ち帰ってもいいと言われます。
雪之城は商細蕊の釈放をもとめにやってきていました。商細蕊へのしうちを見かねて薬を商細蕊に渡します。
その後、雪之城は坂田に商細蕊を困らせないように頼んで出ていきました。
薬を持って帰った商細蕊は程鳳台を治療。家の屋根に登って一晩中歌い続けます。翌朝、商細蕊の声は少し枯れていました。程鳳台は奇跡的に助かります。
やがて程鳳台は杖をもって歩けるまで回復します。
程鳳台は日本軍のいない香港に行くことにしました。程鳳台の妻・范湘児は商細蕊も連れて行こうと言います。
程鳳台は電話で商細蕊に香港行きのことを伝えようとしますが、うまく言えません。
程鳳台は負傷した足をひきずって商細蕊の楽屋を訪れます。そして香港に行くことを告げ香港行きの汽車のチケットを渡しました。商細蕊は「歌えなくなったら香港に行くかもしれない」と答えました。
商細蕊の舞台が始まりました。でも程鳳台は最後まで観ずに劇場を去り駅に向かいます。
上演が終わりました。最後の舞台挨拶に商細蕊はいません。商細蕊は京劇のメイクのまま駅に向かって走っていました。
駅では程鳳台が妻と話をしながら待っています。
でも商細蕊は列車には乗っていないような・・
結局、商細蕊は香港に行ったのか行かなかったのでしょうか?
あなたが判断してみださい。
ラストはなんとも思わせぶりな終わり方です。
ブロマンス(Bromance )とは
「君、花海棠の紅にあらず」で話題になったのが商細蕊と程鳳台の関係がブロマンス的なこと。
ブロマンス(Bromance )の語源は brother(兄弟)+romance(ロマンス)から。
男同士の非常に親しい関係です。でも性的な関係はありません。他人から見ればホモソーシャル(同性愛)のように見えることもありますが、同性愛者とは違います。
本来は考え方や心が通じ合っている仲間。魂が繋がってる男仲間といえるかもしれません。日本で似た言葉は「マブダチ」「バディ」「義兄弟」「同志」でしょうか。
ライバルや敵でも心の奥で通じあえるものがあるときはブロマンスになることがあります。その場合、お互い認めあっているのに戦わなくてはいけない。なんて展開になることも。
現在のドラマや漫画でブロマンスといえば、友達以上BL未満なものが多いようです。
延長線上にホモソーシャルがあるんじゃないか?と思えるようなものもあります。商業作品では「義兄弟」「同志」のようなムサ苦しい男仲間はブロマンスとはいわないようです。
見てる人がBLっぽいのを期待しているからでしょうか?
さて商細蕊と程鳳台の関係はどこまで親密なのでしょうか。
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