舎岩道人(サアムドイン)は実在した鍼灸医だった

5 李氏朝鮮の人々

韓国ドラマ「馬医」に登場する「サアム道人」にはモデルになった実在の医師がいます。

それが「舎岩道人(サアムドイン)」
「舍巖道人」とも書きます。

舎岩道人は許俊(ホ・ジュン)、李済馬(イ・ジェマ)と並んで「医聖」と呼ばれ「朝鮮三大医師」と紹介されることもあります。

舎岩道人について紹介します。

舎岩道人とは

医聖と呼ばれる割に、舎岩道人がどんな人だったのか。その素性はよくわかっていません。

一説によれば。日本と朝鮮が戦争した文禄・慶長の役(朝鮮側呼称は壬辰倭乱)のとき。

僧侶たちを率いて戦った四溟堂 惟政という人物の弟子ともいわれます。僧侶が戦ったといっても日本の僧兵とは事情が違います。

李氏朝鮮では仏教は迫害をうけていたので僧侶は賤民あつかいでした。日本軍が攻めて来て朝鮮の正規軍が壊滅状態になると、朝鮮の朝廷は義兵を募集しました。そのとき集まったのが賤民と僧侶たちです。

抵抗軍を指揮していた光海君や大北派が、戦って手柄を立てれば賤民から解放すると約束しました。そこで多くの僧侶や賤民が集まって戦ったのです。

実際、手柄を立てて賤民から解放されて役職についた人もいます。でも仁祖のクーデターで光海君が失脚すると、日本軍相手に戦った彼らは賤民に戻されてしまいました。

そうした人物の一人に四溟堂がいました。僧侶ですからたくさんの知識をもっています。病気や怪我を治す技術ももっています。戦い負傷した兵士たちの治療にあたったのもこのような人たちです。

舎岩道人はその弟子。と言われることがあるのですが。実ははっきりした根拠はありません。

素性はまったくの謎なのです。いくつかの逸話は残っていますが。時代的にこのあたりに生きた人くらいしかわかっていません。

舍岩道人は鍼灸医だった

ではなぜ医聖とよばれるかというと、特別な鍼灸術を考案して「舍岩道人鍼灸要訣」という本を書いて後世にその知識を残したからです。

「舎岩道人」という名前も著書の作者として残っているだけ。実際の名前がどうだったのかはわかりません。

舎岩道人の鍼灸法は独特で「砂末端処」と呼ばれます。

普通の針は数百あるツボから選んで、何ヶ所、多きときには数十ヶ所にも針をうちます。

でも舎岩道人の療法では肘・膝関節から先にしか針をうちません。使う針の数も通常は8本以下です。

心臓や頭から離れたところに針をうつので事故も減らせます。

一本一本の刺激は強いかもしれませんが、体全体に与えるリスクが減ってより安全な針治療ができるとされます。

また舎岩道人の鍼灸法は陰陽思想を取り入れています。もともと東洋医学は気の流れとか陰陽思想の影響をうけています。舎岩道人はさらにその考えを発展させました。

体と心は一体のもの「体の病気は内面の心から生まれる」と考えました。

体だけを治すのではなく、心の治療もしなければいけない。「心の針」である。と著書の中で説明しています。

日本でも「病は気から」といいますが。単なる精神論ではなく針が精神面に与える影響も考えた治療法を考案したのです。

鍼治療会のカリスマ

というわけなので、実在した舎岩道人は外科医ではなく鍼灸医師でした。体の症状だけ直しても駄目だ。という発想は外科医とは正反対の立場にいるようにも思えます。

外科治療を目指した白光炫(ペク・クァンヒョン)とは違う方法で患者を救おうとしていたようです。

でも怪我の治療にあたった僧侶の知識や技術を受け継いでいるのが本当なら。外科的治療法も知っていたかもしれません。

高価な薬も買えない、医師にも見てもらない。そんな朝鮮の庶民にとっては元手のかからず、針だけで治る(症状が良くなる)鍼治療は大助かりです。

今世界で一番、鍼治療が普及しているのは韓国だといわれます。

東洋医学の本場、中国では漢方薬や様々な方法を組み合わせて中医学が発展しました。日本では針よりも薬で治す方法が重宝されました(だから日本人は薬好き)。

朝鮮ではコストのかからない治療法として鍼治療が重宝されました。朝廷が針治療に熱心だったというのもありますけれど。民間にも針治療が普及したのは安全で効果的な治療法を広めた舎岩道人のような人たちのおかげなのかもしれません。

現代の韓国でも「舎岩道人の治療法を受け継ぐ」と自称する団体があります。

日本でいえば高島易断みたいなものでしょうか。

現代の法人としての高島易断は、易聖と呼ばれ占いの指南書「高島易断」を書いた高島嘉右衛門とは全く関係ありません。子孫や弟子でもありません。

でもそういう偽物がでるのは本人が相当な業績を残したか、高い名声を残したからです。

つまり舎岩道人とは、韓国の針の世界では名前を語って商売ができるくらい権威のある人なのです。

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