トンイの死因は病死？49歳で亡くなった史実と最終回の違いを解説

韓国ドラマ『トンイ』の最終回では死は描かれませんが、息子の英祖が母の墓参りする場面はあります。史実のトンイ（淑嬪崔氏）の死因は病死。1718年3月9日に昌義洞の私邸で死去と記録されています。

ドラマと史実との違いを詳しく解説します。

この記事の要約

• 史実のトンイ（淑嬪崔氏）の死因は病死。
• 享年49歳。息子・英祖に看取られた。
• ドラマ『トンイ』最終回では直接死の描写はない。

トンイ（淑嬪崔氏）の死因は本当に病死だった？

史実の淑嬪崔氏は病死

朝鮮王朝実録によれば淑嬪崔氏（トンイのモデル）は1718年（粛宗44年）に病気で亡くなっています。享年は49歳（数え年）。王命により地位にふさわしい葬儀が行われたことが記録されています。

淑嬪 崔氏卒。 上命禮葬等事, 依例擧行。

出典：『朝鮮王朝実録』粛宗実録 粛宗44年3月9日

当時の朝鮮王朝実録には「薬がたびたび送られた」との記録が残っており、病気療養が長引いていた様子が伝わっています。病名は不明ですが、当時の王族女性の多くが慢性的な持病を抱えていました。

49歳の死は早かいのか？平均寿命から考える

韓国の論文などから朝鮮王朝時代の17～19世紀の推定寿命のデータを集めてみると。庶民はおよそ35歳、王族（国王）は47歳前後、王妃が51歳、側室は57歳が平均とされています。

朝鮮王朝時代の平均寿命比較

淑嬪崔氏（49歳没）はこの中間にあたりになります。当時としては特別に早すぎたわけではないことがわかります。

参考文献：

• 韓国文化財庁「王妃46人・側室175人の平均寿命調査」（Korean Vibe News, 2022）
• 『韓国人の歴史的寿命に関する分析』（Seoul Journal of Economics）

淑嬪崔氏の病と当時の治療

朝鮮王朝の医療とはどんな仕組みだったのでしょうか？

王室には王族や后妃、側室の健康を守るための国立医療機関がありました。それが典医監（チョニガム）です。

ここには王の主治医・御医（オイ）、そして女性を専門に診る医女などが所属していました。薬の管理や処方、診察の対象もきっちり区分されていて、王妃や側室は特に優先して治療を受けられたそうです。

実録に残る「薬を送った」記録

史書『粛宗実録』には、晩年の淑嬪崔氏（スクピン・チェシ）に対して王がたびたび薬を送っていた、という記録が残っています。
「上（王）、薬を送らしめ、太医に侍診を命ず」といった文があり、王の命令で治療が行われていたことがわかります。

病名は書かれていませんが、頻繁に薬が送られていたということは長く続く持病があったのでしょう。

どんな病気だったのか？

送薬の回数や記録の時期から考えると、慢性疾患。たとえば肺の病や肝臓、消化器の不調などが可能性として考えられます。

淑嬪崔氏は宮廷を離れ、昌義洞（チャンウィドン）の私邸で静養していました。静かな環境で療養に専念できるように王が配慮したのでしょうね。

当時の治療は、鍼や灸、薬湯、薬膳が中心。高麗人参や当帰、甘草などの生薬を使って体力を保つことが目的でした。

今の医学でいうと「根治」よりも「緩和」「延命」に近い治療です。

長く病と向き合いながら1718年に息子の延礽君（ヨニングン、のちの英祖）に看取られて亡くなりました。静かな最期だったと伝わります。

王室でも救えなかった命

当時はすでに『東医宝鑑』（許浚・1613年）という名医書が完成していて、王室の医療体制も整っていました。

それでも抗菌薬も手術技術もない時代。どんなに身分が高くても慢性病や感染症を完全に治すのは難しかったのです。

王が薬を贈ることは「回復を願う」というより「少しでも楽に」という祈りのような意味合いが強かったのかもしれません。

ドラマ『トンイ』の最終回で死ぬ？描かれなかった理由とは？

トンイ

最終回にトンイの死が描かれなかった理由

ドラマ『トンイ』を最終話まで見てもトンイが病気で亡くなる場面は描かれていません。そのため「最終回でトンイは死んだのか？」と疑問を持つかもしれません。

ドラマでも主人公のトンイは宮廷を離れました。でも理由は史実とは違います。病気で宮殿を出たのでも王命でもありません。自分の意志で「無力な民のために生きる」と考えて宮殿を出たのです。そしてその意志を貫き、外知部として働く様子が描かれていました。

この決断によって、彼女は王の側室から人々と共に歩む女性へと生まれ変りました。

つまりトンイの最期は「死」ではなく「再生」。
彼女の新しい生き方そのものが最終回のテーマになっていると思うのです。

草原の再会：トンイの最期を語るラストシーンの意味

ドラマではトンイの最期の場面は描かれていません。なのでトンイがどのような形で死んだのかはわかりません。

それでもトンイのドラマは最終的に「草原で国王の粛宗と再会」するという美しいラストシーンで終わりました。

「トンイ」最終回の一場面（出典：Amazon）

実はこの場面には、二つの意味が込められていると思います。

• ひとつは「粛宗とトンイの魂の再会」
• もうひとつは「生と死を超えて結ばれる永遠の絆」。

穏やかな光に包まれたトンイと粛宗の姿は現実世界での再会ではなく“死後の出会い”でしょう。

つまり、あの草原はトンイの魂がたどり着いた“安らぎの場所”なのです。

 草原という舞台も象徴的です。

トンイは宮廷という権力の世界を離れ、広く静かな自然の中に立っています。そこは彼女にとって「自由」と「解放」の象徴でした。

最期に見せた穏やかな笑顔は、すべての苦しみから解き放たれた安らぎを表しているのでしょうね。

この“草原の再会”は、トンイの死を直接描かずに伝えるための詩的な演出だったのでしょう。
悲しみよりも、「彼女の魂がようやく救われた」という優しい余韻を残しています。

英祖の墓参りと受け継がれた母の心

ラストのエピローグでは成長した英祖（ヨニングン）が母の墓を訪ねる場面があります。

彼は墓前でそっと母を偲びます。隣にはチョンス兄さんの姿も。この描写でトンイがすでに亡くなっていることがわかります。

けれどこのシーンは「死の確認」ではありません。
トンイの生き方。“人の心を大切にする”という教えが、英祖の中に受け継がれていることを表現しているのでしょう。

つまりこの場面は「母の死」を表現しているのではなくて、「母の生き方が、王としての生き方に受け継がれた瞬間」を描いているのだと思います。

制作サイドが“死”を描かなかった理由

脚本を手がけたキム・イヨン氏（『チャングムの誓い』『イ・サン』の脚本家です）は、『トンイ』を「一人の女性が理想を貫き、次の世代に希望を託す物語」として描きました。

そのため悲劇的な最期ではなく“生きる意味”を感じさせる終わり方が選ばれたのです。

トンイは死ぬ瞬間まで「人を思いやる心」を持ち続けた女性です。彼女の人生を「希望の象徴」として描くことが、このドラマのテーマでした。

また、韓国の史劇では直接的な死を描くのではなく、“死後の安らかな再会”で物語を締めくくる手法がよく使われます。

魂が再び出会うシーンは思いが受け継がれたことを意味するのです。

晩年の淑嬪崔氏はどこで暮らしていたの？

晩年には粛宗と会う機会が減っていた

ドラマではトンイと粛宗は最後まで親しくしていました。でも史実ではそうではなかったようです。

「朝鮮王朝実録」によると、淑嬪崔氏は晩年の1716年（康熙55年、粛宗42年）ごろから病気になりました。この年、彼女は宮廷を離れて漢城（現在のソウル）の昌義洞にある私邸に移り住みます。そこで療養生活を送りながら、息子の延礽君（ヨニングン、のちの英祖）と同居していたと伝えられています。

晩年の淑嬪崔氏は病気のために粛宗と会う機会が減り、宮廷からも距離を置くようになりました。でも息子の延礽君が常に母を支え、看病したとされています。

この間、淑嬪崔氏は3年間も私邸に留まっていたのでした。でも律儀な彼女は病が少しでも良くなれば宮殿へ行こうとするほどでした。それだけ王の近くにいたかったのでしょうね。

最期を看取ったのは息子の延礽君（英祖）

ヨニングンの肖像画

でも残念なことに淑嬪崔氏の病は回復しませんでした。

1718年（康熙57年、粛宗44年）7月3日に彼女は昌義洞の邸宅で静かに息を引き取りました。享年49歳（数え年）。

このように、晩年の淑嬪崔氏は宮廷の華やかさから離れ、病と向き合いながら息子と過ごしました。彼女の最期を看取った延礽君は後に第21代国王・英祖として即位。母の功績を称えて丁重に顕彰したと記録されています。

トンイ（淑嬪崔氏）の墓「昭寧園」はどこ？

淑嬪崔氏は粛宗の当時の側室の中でも高い地位にありました。粛宗は淑嬪崔氏の葬儀を規則通りに行うよう命じました。彼女の棺は丁重に運ばれ、最高の供物が捧げられました。

淑嬪崔氏は側室ですので、王や王妃と一緒には葬られていません。格式も王妃のものよりは低いです。でも肅宗は淑嬪崔氏のための墓を造らせたので、一定の敬意はもっていたようですね。

淑嬪崔氏のお墓は英祖の手によって整備され、最終的に昭寧園（ソリョンウォン）と呼ばれました。現在の京畿道坡州市にあり。その場所は大切に保存されており歴史的な場所として多くの人に知られています。

淑嬪崔氏の墓

トンイの死因Ｑ&Ａ

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