韓国ドラマ(時代劇)ではときどき巫女が出てきます。
日本語字幕では巫女(みこ)となってるこの人達は、巫堂(ムーダン)といいます。
とくに韓国時代劇では人を呪う場面がでてくると必ず巫女が出てきます。李氏朝鮮時代やそれ以前には、人は呪い殺せると信じられていました。
例えば「トンイ」では禧嬪張氏の家族が巫女に王妃の呪殺を依頼する場面があります。
「オクニョ」ではユン・ウォニョンの家の使用人ソングムが懐妊するために祈祷師のもとに通っていました。オクニョも劇中で儀式を行うことがありましたが道教の儀式を行う人なので巫女とはちょっと違います。
「客主」ではメウォルが王妃お抱えの巫女になりました。これらの巫女は巫堂(ムーダン)とよばれる民間の祈祷師なんです。
韓国時代劇に登場する巫堂(ムーダン)について紹介します。
巫堂(ムーダン)
朝鮮半島に古くからある民間信仰の祈祷師です。仏教や道教、儒教のように決まった教えがあるわけではありません。民間信仰で受け継がれてきたものです。
巫堂の多くは女性ですが、まれに男性もいます。男の場合は「パクス」といいます。
巫堂はシャーマンの一種といえます。巫堂の体に霊を降ろして、死者や神の言葉を伝えます。専門的には「憑依巫女」といいます。
時代によっては「巫堂神」によって組織化されて巫堂にも格が決められていた時代もありました。しかし形骸化しています。
日本の巫女との違い
巫堂は巫女と訳されることが多いです。でも日本の神社で働いている神社巫女とは違います。巫堂は特定の宗教施設に所属しているわけではありません。それぞれが各自で活動しています。
神社巫女は大昔は神がかりをしていましたが、現在は神がかりはしません。儀式の補佐をしたり、神社内の雑用をするのが主な仕事です。施設の職員としての役目もあります。むしろ世界的には日本の神社巫女の方が珍しい存在です。巫女といえば世界的には民間で活動する「憑依巫女」の方が多いです。
日本にも江戸時代までは民間の憑依巫女がいました。日本では明治時代に民間の憑依巫女が禁止された時代がありました。現在では青森のイタコなど一部しか残っていません。かわりに霊能者・占い師という形で残っています。沖縄にもユタとよばれる憑依巫女がいます。
巫堂の仕事
ドラマでは人を呪ったり御札を授けている場面が多いですよね。
巫堂は主に病気の回復、悪霊のお祓いを行います。
巫堂は民間医療も行います。原因不明の体の不調は悪霊のしわざと考えられていました。巫堂は治療行為もしていたのです。また医者に観てもらうと高額のお金がかかります。お金のあまりない庶民は巫堂に見てもらうことも多かったのですね。
踊りや音楽も必要でした。神を降ろす儀式には寸劇の要素を取り込んで、面白おかしく見せて見物客を惹きつけました。ただのお祈りではなく踊りや音楽も必要だったのです。ドラマでも太鼓を鳴らしながら祈ったり、呪ったりする場面が出てきますね。巫堂には伝統芸能社としての一面もあったのです。
巫堂は誰に祈ってるの?
巫堂は神に祈っています。ここでいう神とは朝鮮半島古来から信じられている古い神です。仏教や道教の神や仏とは違います。朝鮮半島にも様々な神がいます。巫堂が信じるのは主に呪力を持つ女神です。
代表的な神には
パリ公主:死者を死者の世界に引き渡す神。
タングムエギ:生産を司る女神。
サム神:子宝の神。
などがいますが、長い年月の間に仏教や道教の神も入り込んでいます。巫堂の中には古来の神だけでなく仏教や道教の神、キリスト教の神も信じている人もいるようです。ご利益があればどの神でもいいのです。
誰がどの神を信じるかは個人の自由です。複数の神を信じることもできます。むしろ大きな祓いをするときは複数の神を降ろすことがあります。
巫堂になるのはどんな人?
巫堂には世襲巫と一般巫がいます。
世襲巫はその名の通り、巫堂の家系から出た巫堂です。
一般巫は血縁者に巫堂がいない人でも、霊を下ろす能力があればなれます。一般人が巫堂になる場合は犠牲が必要なこともあります。巫堂になるのを反対する家族がいた場合その人が突然死亡することがあります。家族が神と巫堂の橋渡し役になると考えられました。この現象を「人橋(インタリ)」といいます。
どちらも巫堂になるためには「祈祷(クツ)」をしなければいけません。神を体に降ろして神がかりになる儀式です。祈祷(クツ)ができてはじめて巫堂と認められるのです。
巫堂は家の一角に神堂(クッパン)を作って神様を祀ります。祭壇のあるお祈りをする場所です。神堂には部外者はもちろん家族も入れません。
現代も生きている巫堂
朝鮮半島の人々はもともと占いや予言、お祓いが好きでした。李氏朝鮮時代は占いや祈祷は儒教の教えに反するとして禁止されました。しかし禁止されたのは表向きだけです。民間では広まっていましたし王族や両班も裏では巫堂に頼っていました。巫堂は時代劇の中だけの存在ではありません。現代にもいます。
韓国では現在も巫堂がいて重要な役割を担っています。
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