韓国ドラマ『風と雲と雨』は朝鮮末期を舞台にしたドラマ。
史実をそのまま再現したドラマではありませんが、哲宗の崩御から高宗の即位、興宣大院君の台頭、フランス軍との戦いなど、19世紀後半の朝鮮で起きた出来事をもとにしています。
この記事では史実に近い流れとドラマならではの脚色を分けて、人物設定・年表・見どころが整理できるようにまとめました。
この記事で分かること
- 史実の哲宗崩御〜高宗即位〜大院君の実権の流れ
- フランス軍との戦いなど、ドラマが材料にした実際の事件
- チェ・チョンジュンやイ・ボンリョンなど創作要素が強い人物設定のポイント
風と雲と雨は実話?
『風と雲と雨』は実在した哲宗・高宗の時代を描き、多くの場面で19世紀後半の朝鮮で起きた出来事を材料にしています。でも史実をそのまま再現したドラマではありません。
たとえば次の部分は史実をもとにしています。
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哲宗が後継者を残さず崩御する
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次の王をめぐって宮廷が揺れる
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高宗が即位し興宣大院君が政治の実権を握る
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江華島で外国軍(フランス)と衝突する(丙寅洋擾)
- 興宣大院君と王妃閔氏が険悪になる
ドラマはこういった背景に観相・四柱推命・霊能力の要素を盛り込み、架空の人物を主役として登場捺せました。だから実在する人物や歴史上の事件が出てくるのに、やっていることはドラマならではに見えるのですね。
創作部分
史実に近い部分がある一方でチェ・チョンジュンが王を選ぶ側として暗躍するのは創作です。
チョンジュンは観相や四柱占いで先を読み裏で手を回します。戦場でも作戦指揮役として活躍。主人公として存分の活躍を見せます。
イ・ボンリョンが哲宗の隠し子で霊能力を持つ設定もドラマ版の脚色です。
歴史上の出来事にこうした創作部分をうまく組み合わせているのです。
年表(史実の年+ドラマ対応)
次にこのドラマで描かれる時期の年表を紹介します。
※ドラマ内で年が明言されない場面もあるため、史実年は目安です。
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1849年:哲宗が即位。外戚の影響が強い時期へ。
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1857年:大王大妃・純元王后が死去。宮廷内の力関係が動き始める。
- (ドラマ)哲宗晩年:外戚がヨンウン君を担ぐ→チョンジュンが偽りを暴きキム一族が失速。
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1863年:哲宗が崩御、高宗が即位、興宣大院君が実権を握る(15話)。
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敵が金氏から大院君へ切り替わる(16話)。
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1866年:ミン・ジャヨンが王妃になる(のちの明成皇后)。(17話)
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王妃ジャヨンが動き始めるが、まだ力が足りない(18話)。
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1866年:フランス軍来航と衝突(丙寅洋擾)(20話)。
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暗殺未遂→ロシアへ逃亡(最終回)。
実在する人物・しない人物
ドラマに登場する人物・モデルのある人物を紹介します。
実在する人物
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哲宗(チョルジョン):朝鮮王朝第25代王。ドラマでは病弱に描かれ、後継者を残さず崩御。
→ 哲宗(チョルジョン)はどんな人?死因は? -
高宗(コジョン):第26代王。次の王として擁立される。
→ 高宗 (コジョン) 李氏朝鮮王朝 最後の国王 -
興宣大院君(イ・ハウン):高宗の父。前半は身を低く見せ、後半は実権を握る。
→ 興宣大院君 李昰応(イハウン) 権力への執着と閔氏への敵意 -
ミン・ジャヨン:高宗の王妃になる女性。のちの明成皇后。
→ 風と雲と雨:ミン・ジャギョン(明成皇后)とは? -
キム・ジャグン:大王大妃の弟。外戚勢力の中心人物。
→ 金左根(キムジャグン) 勢道政治を行った安東金氏の首領
モデルはいるがほぼ架空の人物
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チェ・チョンジュン:観相師として王位争いに関わる主人公。
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イ・ボンリョン/ファリョン王女:哲宗が江華島時代に出会った巫女との間に生まれた娘。
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キム・ビョンウン:ジャグンの養子。婚姻や王女を使い、陰謀を企む。
架空
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チェ・インギュ:チョンジュンの親友でしたが対立。キム一族の手下となります。
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ヨンウン君:外戚が担ぐ次期王候補。のちに王族ではないと暴かれます。
前半最大の敵:壮洞金氏が「王より上」に見える理由
前半を見ていると「本当に王は哲宗なの?」と思う場面が続きます。
王は何もできず、いつもキム氏のいいなり。キム氏は王以上に贅沢をしています。
ドラマの壮洞キム氏は安東金氏がモデル。史実でも勢道政治という特定の一族が権力を握って政治を私物化する時代がありました。
勢道政治って何?なぜ権力を握れた?
勢道政治は王が名目上の中心にいても、実際の政治を一部の重臣や王妃の実家など外戚の一族が動かす状態を指します。
19世紀は幼い王の即位が続き、王の指導力が弱くなりやすい時期でした。王が幼いと垂簾聴政が行われ、そこに外戚の有力家門が入り込む隙が生まれます。
安東金氏が権力を握った理由主に3つです。
王室との婚姻で「王の身内」になれた
正祖が世子(後の純祖)の妻に安東金氏の金祖淳の娘を選びました。純祖は即位し、金祖淳は国舅(王の外戚)として地位を得ます。これで「王家の親族」として人事に口を出しやすくなりました。
幼少の王が続き宮廷の主導権が外戚に移る
純祖・憲宗と幼い王が即位、哲宗は成年ですが教育を受けていません。政務経験がなく、知識も能力も足りない王が続きました。その代わりに外戚や重臣が実務を握りやすくなります。
要職を一族で固め反対派を外した
外戚になった一族が官職を押さえ政敵を遠ざけました。政敵は戦う前から排除されてしまいます。そうなると政治や人事は特定の一族に有利に動くようになります。
官職の売買が露骨に行われる
勢道政治期は安東金氏・豊壌趙氏のような外戚が人事を握り官職が金で動きやすくなりました。昔も賄賂はありましたが、勢道政治期は「官職を買って就いて回収する」流れが強まります。富が特定の一族に集まり、ますます強くなるのです。役人たちは貢いだ金を民から搾り取り、民の生活はますます苦しくなります。
この結果、王は国の頂点なのに実際の権限は弱いという現象が続きます。
史実側の注意:金氏が哲宗の最期まで勝ち続けたとは限らない
ドラマでは哲宗の晩年までキム一族が圧倒的な力を持っています。
史実でも哲宗期に安東金氏が強い影響力を持ったのは事実です。でも史実では大王大妃(純元王后)の死後は影響力が弱まり、代わりに趙大妃と豊壌趙氏の発言力が増しました。
そこへ興宣君が取り入り高宗擁立が実現します。安東金氏は哲宗期の前半では力を持ったものの、王位継承の場面では主導権を握り切れなかった、とも言えます。
勢道政治もいつも権力者が固定されているわけではないのです。
ドラマはここを詳しく描きません。キム一族を強く見せ続けます。
そのキム一族に戦いを挑んだのがチェ・チョンジュンと興宣君の設定です。
高宗擁立は「次の王」をめぐる勝負
哲宗は跡継ぎを残さず病で倒れました。そうなると宮廷は一気に不安定になります。
ドラマでは興宣君は次の王は自分の子にすると腹を決めています。そのためなら何でもします。キム一族にも媚びへつらいます。
ところがキム一族が選んだのは興宣君の息子ではありませんでした。そこで興宣君はチョンジュンと組んで我が子を息子にしようとします。
チョンジュンはこの争いの中で「勝てる策」を考え実行する役です。
キム一族が担いだヨンウン君の正体を暴き、興宣君はキム一族の内部の不和を狙って味方を増やす。この積み上げが高宗擁立に繋がります。
この時点ではチョンジュンは朝鮮を立て直すために、それにふさわしい王が必要。それが興宣君の息子と考えていました。
ところが興宣君が勝って高宗が即位しても、チョンジュンの思った世の中にはならなかったのです。
敵の交代は第16話「嵐の前兆」から
高宗を王なり。イ・ハウンは興宣大院君となり政治の実権を握りました。チョンジュンとボンリョンは結婚し、ようやく静かな時間を手に入れました。
ところが第16話以降では共に戦った大院君がチョンジュンの敵となります。
大院君は流浪民が集まる三田渡場に軍を向け虐殺させました。ここでチョンジュンは決定的な違いを突きつけられます。
外戚と戦っていた間は「民を守る」という方向でともに戦うことができた。しかし権力の座についた大院君は弱い民を切り捨てて強い国を作ろうとします。しかも大院君はチョンジュンを危険視して排除しようとするのでした。
第18話:王妃ジャヨンが動き始めるが、まだ届かない
ボンリョンは王にふさわしい人物としてミン・ジャヨンを選び。チョンジュンと協力して彼女を王妃にしました。
ミン・ジャヨンは興宣大院君になかなか従いません。
18話ではジャヨンは高宗が父に押さえつけられている現実を目撃。そこで高宗のそばにチョンジュンを置くよう勧めます。
ジャヨンは興宣大院君を恨み、裏で動いて興宣大院君の失脚を狙うようになります。でもその策も興宣大院君によって潰されました。
まだこの時点ではジャヨンに興宣大院君を倒せるほどの力はありません。ドラマの中では王に匹敵する力を持つ逸材として将来性の高さが描かれるだけです。
第20話「戦火の島」:フランス軍撃退が大院君を強くする
第20話は江華島の戦いが山場です。チョンジュンは処刑されるはずだったインギュを救い出し、戦地へ連れて行きます。地の利を知るインギュの経験を使い戦略を立てフランス軍を退けました。
ここまではチョンジュンが「国を救った英雄」として描かれます。
帰還後の宴会でそのねじれが表に出ました。国を守った直後でも、チョンジュンが政策を批判した瞬間に興宣大院君の怒りを買ってしまいます。勝利の場がそのまま決裂の場になってしまいました。
キリスト教弾圧でチョンジュンが窮地に
さらに天主教徒が「外国と内通した罪」で処刑される事件が続きます。
チョンジュンは仲間を救うため興宣大院君のもとへ行きますが、忠誠を誓わされる展開になります。
逆らえば皆殺しになりかねない状況に追い込まれていくのです。この回を境にチョンジュンは「もう言葉では止められない」と追い詰められていきます。
史実にあったフランス軍との戦い
ドラマで描かれる江華島でのフランス軍との戦いは史実では 丙寅洋擾(へいいんようじょう/병인양요) に当たります。
1866年にフランスが朝鮮へ行った遠征で、主な戦場が江華島でした。
- いつ:1866年(10〜11月ごろ)
フランス人カトリック宣教師の処刑など、キリスト教弾圧への報復 - どこ:江華島中心
- 結果:最終的にフランス軍が撤収(朝鮮側勝利とされる)
最終回:暗殺計画→失敗→ロシアへ
最終回でチョンジュンは、興宣大院君を止められないと考え、ついに暗殺を計画します。
手段は琴に爆薬を仕込む方法です。宴で演奏に見せかけて近づき、爆破で仕留める計画でした。
しかし土壇場で計画は崩れます。子どもが近づき、無関係な命を奪う危険が出たからです。チョンジュンは琴を投げ捨て、爆発を避け暗殺は未遂に終わります。
結果として彼は「大院君を殺しに来た男」として追われます。救い出されたチョンジュンは国外へ逃げ、ロシアにたどり着きます。
チョンジュンは金氏という巨大な敵を倒しました。ところがその後に、さらに手に負えない権力が生まれます。
それを止めようとしたチョンジュンは、国内に居場所を失う。最後は勝者ではなく、追放された者として国を去る。ドラマはそこで終わります。
最終回の「ロシアに移住」はあり得る?
チョンジュンと仲間は最終的にロシアに移り住みました。
でもこれは現実に有り得る話です。19世紀後半、国境を越えてロシア極東(沿海州)や満洲へ移り住む朝鮮人は実際にいました。
チョンジュンが移り住んだロシアにも朝鮮人居住地があります。ドラマのエピソードはそうした史実を参考に描かれているようです。
もちろん逃げた先で安心して暮らせる保証はありません。言葉も制度も違い、仕事や住まいの確保は簡単ではないはずです。
それでも追われた人が国境の外へ出ること自体は、不自然とまでは言えないのです。
チェ・チョンジュンのモデルは?
チョンジュン(崔天中)は史実に実在した人物ではありません。チェ・チョンジュンは創作です。
ただし「興宣大院君に近づき高宗の即位を見抜いた観相師の逸話」など、モデルになった話はあります。
ドラマはそうした話を拾い、事件や恋愛、敵役との因縁を足して、キングメーカー役に仕立てています。
詳しくはこちらをご覧ください
風と雲と雨:チェ・チョンジュンのモデルは実在する?
イ・ボンリョンは実在する?
イ・ボンリョンは哲宗が江華島にいた頃に生まれた娘です。哲宗には娘はいますが、江華島時代にいたとは記録されていません。
実はボンリョンが「王女」なのはドラマ2020年版の設定です。
原作小説や1989年版のドラマでは「ファン・ボンリョン」の設定で奴婢の子という設定でした。
2020年版のドラマでは王女の設定にし、さらに未来を見通す神力を持ちます。そのため様々な勢力に利用されます。
王家の血筋と霊能力をセットにして、ドラマチックな宮廷争いに巻き込まれる流れになっています。
詳しくはこちらをご覧ください
ファリョン翁主イ・ボンリョンは実在するの?[風と雲と雨]
FAQ
Q1. 『風と雲と雨』は実話?
実話ではありません。史実の人物と出来事を材料にしたフィクションです。
Q2. 金氏(壮洞キム氏)は本当に王より強かった?
哲宗期に外戚が強い影響力を持ったのは事実です。
ただ、ドラマのように最後まで盤石だったとは言い切れません。
Q3. ヨンウン君は誰? なぜ“偽物”が致命的?
ドラマでは次期王として担がれます。
しかし王族ではない身分だと暴かれ、血筋の正当性が崩れて計画が潰れます。
Q4. 敵が金氏→興宣大院君に変わるのは何話?
第16話「嵐の前兆」からです。
Q5. 第20話の戦いは何?(米軍?フランス?)
ドラマ第20話はフランス軍との戦いです。江華島での衝突を材料にしています。
Q6. 最終回でチョンジュンはなぜ暗殺へ?
言葉でも政治でも止められず、追い詰められるからです。
Q7. 最終回でチョンジュンはどこへ逃げる?
ロシアです。
Q8. ボンリョンは実在する王女? 原作でも王女?
実在の王女ではありません。2020年版の設定です。
原作・1989年版は王女設定ではありません。
Q9. チョンジュンは実在する?
実在しません。主人公としてのチョンジュンは創作です。


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