武侠小説ドラマ・小説は中国文学の人気ジャンルです。
「武侠」ものとは正義感に熱くて、武術の優れた主人公が悪者を倒していく冒険時代劇。戦って悪を倒していくので戦乱の時代や荒れ果てた時代が舞台になることが多いです。
第二次大戦後に香港や台湾で金庸(きん・よう)、古龍(こ・りゅう)、梁羽生(りょう・うせい)たちが書いた小説が中国大陸でも人気になり、小説・ドラマ・アニメ・ゲームなど様々な文化に影響を与えました。作家たちは独特の世界観・技・用語などを作り出しました。今では現代中国人におなじみの文化になっています。
中国時代劇のアクションシーンにも金庸たちの作品の影響があります。最近の中国ドラマの人気で日本にもたくさんの中国時代劇が入ってきました。その中には武侠小説の世界観で作られたもの、武侠小説の影響をうけたものがたくさんあります。
でも武侠小説は独特の単語や設定があるので日本人にわかりにくい部分もあります。
そこでこの記事では武侠小説・ドラマに出てくる専門用語を紹介します。
ドラマを見るときの参考にしてください。
社会・組織用語
江湖(こうこ)
武侠小説・ドラマでは侠客、武術者、盗賊たちの社会のこと。朝廷や役所の権威や力が及ばない無法地帯です。
当然、武力や相手を出し抜く技量が頼り。門派とか幇会と呼ばれる武装組織が各地にいてそれぞれの縄張りを持っていることもあります。
ヤクザやアウトローの社会を言うこともあります。
語源としては長江流域の大きな川や湖がある地域。
歴史的には官に対する民間の社会。
長安・洛陽・開封・北京など黄河に近い北部とは違い。長江流域の南部は首都からは離れていたため南=朝廷の支配の及ばない地域の印象があります。
「江湖」に似てるけれど微妙に違う言葉に国の領土を意味する「山河」があります。
漢詩に「山河」があるからと言って自然を表現しているとは限りません。「領土」を表現している場合もあります。「江湖」「山河」は自然の意味で使っているときもありますが、人がいる場所の意味で使うこともあります。日本と中国では漢字の使い方が違うこともあります。
侠客(きょうかく)
建前上は正義のために自己犠牲もいとわず人の為に戦う人。自分の武力を頼みに放浪する人々。独自の正義感で行動しているので法や世間の善悪と一致しないこともあります。
侠客という職業は存在しません。元の職業は様々。それぞれの理由があって放浪している人たちがそう呼ばれます。
日本ではヤクザのイメージが強いですが。中国文学では英雄化されていて、中国の小説やドラマに登場する侠客はたいていは正義の味方です。
幇会(ほうかい)
会員同士が助け合うために結成した組織。同じ出身地、同じ仕事、同じ血族、同じ宗教、同じ政治思想など、まとまる理由は様々。
中国では朝廷や役所は税をとるだけで庶民を助けてくれません。そのため人々は自分たちを守るための集団を作りました。それが幇会です。
本来は健全な団体のはずですが。組織が閉鎖的なため犯罪組織化することもあります。中国では幇会が反乱を起こすこともあり。国家を揺るがす存在になることもあります。
現在の中国・香港・台湾・華僑の犯罪組織やチャイナマフィアは幇会をルーツにしているところもあります。
幇主(ほうしゅ)
幇会のリーダー。
武林(ぶりん)
様々な武術の流派をまとめて呼ぶ言葉。武術業界。
武術の流派がヤクザ・マフィア社会のように武力抗争している。国を守るために異民族と戦っている。というのが武侠小説ドラマの設定。
門派(もんは)
武術の流派でまとまった幇会。
宗教団体や武術道場が経営していることが多いです。はっきりした師弟関係があって組織の中は序列社会。武術道場が流派まるごとヤクザ化したような集団。任侠団体みたいなもの。
よく出てくる集団・組織
作者や作品が違っても似たような名前の組織が登場することがあります。伝説上の集団をモデルにしていることが多いですね。よく出てくる組織のおおまかな特徴を紹介します。
丐幇(かいほう)
武侠小説によく出てくる架空の組織。丐(かい)は乞食(こじき)の意味。
物乞いたちが組織した集団。独自の武術を身に着け、他の門派と抗争を続けています。各地に支部があるので大きな組織として描かれることがあります。
他の武術集団と戦えて各地に組織を作れるほど強いならなぜ物乞いをしているのか?というのは謎。
鬼谷(きこく)派
鬼谷子は春秋戦国時代に活躍した縦横家(策略・交渉術)。歴史的には存在が曖昧。道教等で神格化されました。
武侠小説には鬼谷子の教えを受け継いだ流派が登場することがあります。鬼谷子は策略や交渉術を編み出した人とされますが、武侠小説の鬼谷派はなぜか武術を身に着けた戦闘集団です。
鬼谷という人里離れた山奥に住み、いざという時には人々の為に戦うとされます。
逆に「鬼谷」という怖そうな名前に引きずられて悪の結社みたいに描かれることもあります。
「鬼谷」が武林の流派として登場する作品は「秦時明月(「麗姫と始皇帝」の原作)」が有名。
少林(しょうりん)派
少林拳を使う流派。6世紀に達磨大師が創始して河南省の嵩山(すうざん)少林寺で受け継がれたとされる武術。「天下の功夫は少林より出る」と言われるほど歴史があり権威のある流派。
というのは伝説に小説の設定を追加したもの。武侠小説では少林派はかなり強力な流派として登場します。
歴史上の嵩山少林寺では武術は行っていましたが。寺を守る僧兵でした。武侠小説に登場する少林派は言い伝えをもとに脚色したものです。
現代には昔ながらの技法を伝える流派(伝統少林拳)もありますが。今の中国で最も広まっている少林拳(現代少林拳)は中華人民共和国で共産党が様々な流派を統合して作った武術です。テレビや映画の少林拳はたいていは現代少林拳です。
また嵩山少林寺(北少林寺)とは別に福建少林寺(南少林寺)が存在したと言われますが。それも武侠小説等の影響といわれます。
間違われやすいですが中国の「少林拳」と日本の武道の「少林寺拳法」は関係ありません。
墨家(ぼくか)
墨子が創始したとされる思想を受け継ぐ集団。春秋戦国時代に平和主義をかかげ攻める戦いではなく籠城戦や守備のための戦いを主張。武装集団を作り、攻められている城があれば救援に向かったといいます。
様々な科学の知識を持っていたとされ。小説やドラマの中で複雑な加工品やカラクリを作る集団として登場することもあります。
一時は儒家と同じくらい栄えたと言われますが、平和主義な考えが諸侯に受け入れられず衰退。戦国時代統一後に滅亡しました。
小説やドラマではその子孫・思想や技術を受け継ぐとされる集団が登場することがあります。
鏢局(ひょうきょく)
品物・金・人の輸送と警備を行う組織。盗賊から品物を守らないといけないので戦える人が多いです。荷物が失われたら鏢局が弁償します。組織内には師弟関係があって規律があり戦える者も多いのでちょっとした私設軍隊みたいになることも。
武術の流派ではありませんが護衛のために武術を身に着けた人が多いので武侠小説によく出てきます。
鏢局の名前ができるのは清朝時代。それ以前の王朝にも似たような組織があって様々な名前で呼ばれていました。武侠小説ドラマでは時代に関係なく鏢局と呼ばれます。
本物の鏢局についてはこちらを参照。
鏢師(ひょうし)・鏢客(ひょうきゃく)
鏢局に所属して実際に荷物を輸送する人。用心棒。
鏢頭(ひょうとう)
鏢師・鏢客をまとめて貨物の輸送を行うリーダー。
技術
内功(ないこう)
気功のこと。体内の気を操って自由自在に使う技。攻撃・防御・治療に使えます。武侠小説では西洋ファンタジーの魔力のような扱い。
内力(ないりょく)
気が生み出す力のこと。鍛錬して体内の生命エネルギー(気)を高めて、生命エネルギーのパワーを強くすれば防御や攻撃、治療にも使えます。五感も鋭くなります。手や武器を通して「気」を放出することで敵にダメージを与えることもできます。
外功(がいこう)
一般的な武術のこと。筋肉・皮膚などの肉体を鍛えて物理的なダメージを与える技。型や練習法も含まれます。
軽功(けいこう)
身のこなし軽くする技。武侠小説では軽功を使うことで空を飛んだり、ものすごい速さで走ったり、何メートルもジャンプできます。ドラマの中国人が空を飛ぶのは軽功があるから。
現実の軽功は体重を減らしたり特殊な体の使い方を覚えたりバランス感覚を鍛えたりして。常人よりも高いレベルで身のこなしの軽い動きをすること。現実に空を飛べるわけではありません。
掌法(しょうほう)
武術の技の一つ。拳を使う「拳法」に対して、手のひらや手刀を使う技。手の平そのものを相手の体に当てて攻撃にも使います。
武侠小説では手の平を接触させた瞬間に体内の気を手の平から一気に出してダメージを与えます。
中国武術の発勁を元ネタにしていますが。発勁は魔術的なエネルギーではありません。体の特殊な使い方で力を発揮させる技です。見た目は似てますが違う技です。
点穴(てんけつ)
体の経穴(ツボ)を突いたり衝いたりして気の循環を止める技。ツボの位置によっては気や血の巡りが悪くなって死に至ることもあります。応用すれば止血や毒のまわりを止める事ができるので治療にも使われます。
中国・韓国時代劇で毒を塗っていない針でも人が死んだり衰えたりするのは点穴を使っているから。そういう「設定」なので現実にできるかどうかは別。
内傷(ないしょう)
体内部の内蔵や骨、筋肉が傷ついていること。
外傷(がいしょう・体表面の傷、怪我)ではない傷という場合に使います。
剣訣(けんけつ)
剣指(けんし)ともいいます。
剣を持たない方の指の握り方。
人差し指(食指)と中指をまっすぐ伸ばし。薬指、小指を曲げて親指を薬指の上に乗せて軽く押さえます。武侠小説では剣訣で敵の急所を突いたり、剣を挟んで取ったり、折ったりします。
現実の武術(演武)では剣を持たない手に意識を向けて体のバランスをとるため等に使います。剣訣で相手の剣を攻撃したりはしません。そんなことをしたら怪我します。
武侠小説はファンタジーなので現実には不可能な動きが多いです。
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