中国には昇平公主を主人公にした「打金枝」という劇があります。
「打金枝」は京劇でもおなじみです。
「打金枝」のヒロインは唐の代宗の娘・昇平公主。
京劇以外にも様々な演劇で演じられていて、様々なバーションがあります。
もとは清朝時代に「普劇」の演目として始まったものです。後に様々な演劇で上演され。京劇にもなっています。
中国の劇は地方によっていろいろな種類があります。京劇よりも見た目がシンプルな大衆演劇風のものから豪華な京劇までさまざま。
やはりメイクや衣装が一番派手で豪華なのは京劇。京劇は清朝の皇室が基本的な様式を作ったからです。普劇は京劇によく似た演劇で、モンゴルに近い中国北部で行われています。
「打金枝」には他にも「汾陽富貴」「福壽山」「百壽圖」「醉打金枝」「満床笏」などのタイトルがあります。
「打金枝」大まかなストーリー
「打金枝」は「資治通鑑」という歴史書に載ってる昇平公主と郭曖の喧嘩をもとに脚色したお話です。
登場人物
昇平公主:この作品のヒロイン。代宗皇帝の娘。
郭曖 :昇平公主の夫、将軍・郭子儀の息子。
郭子儀:唐の将軍。安史の乱の鎮圧で活躍。
代宗 :唐の第11代皇帝。
沈皇后:代宗の妻(史実では沈氏は皇后になってません)。
主なストーリー
汾陽王 郭子儀の80歳の誕生日に8人の息子と7人の嫁が集まりました(6人の子と8人の婿のバージョンもあり)。
でも三男(六男、八男のバージョンもあり。史実では六男)・郭曖の妻・昇平公主だけが来ません。郭曖は昇平公主と痴話喧嘩になります。昇平公主は怒って実家(宮殿)に帰り、父の代宗皇帝に泣きつきました。
公主が実家に帰ると郭子儀親子は大慌て。
郭子儀は皇帝を怒らせたらお家の一大事と息子の郭曖をしかりつけ。代宗皇帝の所に謝りに行きます。
沈皇后は昇平公主の言い分に半信半疑。郭子儀と婿が来たら沈皇后は二人を優しく出迎えました。
結局、代宗皇帝と沈皇后がとりなして昇平公主と郭曖は仲直りしました。
というお話。
沈皇后は沈珍珠のことのようです。史実では沈氏は代宗が皇帝になる前に行方不明になっています。実際には皇后になってません。物語ですから事実関係はどうでもよくて面白ければそれでいいのです。
最初は子孫繁栄の演劇だった?
「打金枝」は清朝時代に作られた演劇「満床笏」がもとになっています。最初は郭子儀の誕生日に8人の息子と7人の婿が集まり。息子たちが持っていた「笏」がテーブルいっぱいに積み重なった。郭子儀はいい子どもたちをもった。郭家は安泰だ。という子孫繁栄が強調されたお話でした。
「笏(しゃく)」は偉い役人が持つ板状の物です。息子や婿がたくさんいて皆出世している。「満床笏」というタイトルは「笏がいっぱいになった」という意味です。
王朝滅亡後。
昇平公主と郭曖の夫婦喧嘩が強調されるようになりました。現在公演されて人気になっているのは中国になって作られた新しい方の物語です。
「京劇」は清朝時代からあります。逆にいうと京劇の歴史は300年くらい。それでも十分伝統がありますが、京劇に中国4千年の歴史はありません。
もちろん中国には古くから劇や雑技はあります。でも役者が歌うことはありません。大勢の人前で歌を披露するのは遊牧民社会の習慣。漢民族と遊牧民の演劇が合体して京劇スタイルの演劇が生まれました。今のように派手な衣裳をつけて舞台で歌ったり踊ったりするのは清朝時代です。清の皇室が専用の劇団を作り、様々な衣裳やメイクなどルールを作って京劇の形を作り上げました。
さらに、「打金枝」は中華人民共和国になって今の形になったのでそれほど伝統があるわけではありません。中国文化を紹介するときに枕詞のように「中国4千年(最近は5千年らしいです)の歴史」が付いてきますけど、京劇や打金枝そのものには4千年の歴史はありません。
とはいえ。京劇そのものは伝統芸能ですし。新しいと言っても元ネタは「資治通鑑」からとっているので根拠のない作り話ではありません。
わがまま公主と彼女に振り回される人々を描く喜劇
「打金枝」は演劇なのでおもしろおかしく脚色しています。その方が見ていて楽しいからでしょう。
結局、劇中の公主はゴネ得?
と思えますが。喜劇なので庶民の娯楽としてはこんなものなのでしょう。
この劇の昇平公主は「わがままな王女」のイメージそのまんま。昔の中国人の公主(皇帝の娘)のイメージが良くわかって興味深いです。
王朝ものの中国時代劇には必ずと言っていいほど、自己中心的ワガママな王女、貴族の娘が出てきます。王女はワガママなもの、というイメージが出来上がってるようです。
本物の昇平公主がどうだったかはわかりませんが。
唐は歴代中国王朝の中でも女性の力が強い国。公主は皇帝の権威を利用して横暴に振る舞う人が多かったようです。こういう国なら武則天みたいな人がでてもおかしくはありません。
臣下としては公主と結婚すると家門の出世につながるので嬉しいのですが、公主は非常にわがままなのでありがた迷惑だったようです。
でも「打金枝」の昇平公主はむしろ可愛く思えるくらいです。
だから人気があるのかもしれません。
歴史上の昇平公主についてはこちらを御覧ください。
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