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銀針や銀の箸で毒が有るのが本当にわかるのですか?

銀の箸 e ドラマが分かる歴史の知識

韓国ドラマや中国ドラマでは銀の針や箸、かんざしを使って毒を調べている場面があります。

「銀は毒に反応するから」が理由のようです。

でも本当に銀は毒に反応するのでしょうか?

銀で毒試験するのは医学的に正しいのでしょうか?

銀の針や箸で毒が分かるのか本当のことを紹介します。

 

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銀で毒試験は実際に行われていた

確かに中国王朝や朝鮮王朝では銀の針を使って毒試験を行っていました。約1000年以上前から中国で行われている方法です。

銀針や銀箸を毒の入ったものにつけると黒くなる反応を利用して毒があるかないかを調べています。

中国王朝には銀針という毒試験用の道具もありました。のちに朝鮮王朝にも伝わり銀の針や箸は毒試験に使われるようになりました。

なぜ銀針で毒が分かるの?

銀は硫黄(イオウ)と反応する

銀が黒くなる理由は硫黄が反応して硫化銀という黒い物質になるからです。サビのようなものです。

反応式
 H2S + 2Ag → Ag2S + H2
硫化水素  銀    硫化銀  水素

銀は貴金属なので他の物質とはあまり反応しないのですが。硫黄とは非常に反応しやすいです。

自然界の空気には微量ですが硫化水素が含まれています。銀製品を放置して黒くなるのはそのせいです。

というわけで。

「硫化物を判定しているってことは硫黄が危険なの?」

と思うかもしれません。

硫黄(S)そのものはそれほど危険ではないです。食べても死にません。もちろん大量に食べれば健康に害は出ますけど、そんなことしてたら毒殺する前に気づかれてしまいます。

硫黄は化合物になると危険なものもあります。硫化水素(H2S)はその代表です。

硫化水素は高濃度で吸引すると死に至ることがあるので自殺に使われます。社会問題にもなりました。ですが純度の高い硫化水素を肺にたくさん入れないといけないので簡単にはいかないです。その間非常に苦しみます。しかもガスなのですぐ飛んでしまい周りの人も影響を受けます。

さらに。温泉の硫黄臭(と言われるもの。硫黄は無味無臭)やおならの臭いも硫化水素です。生物が腐ったときに出る腐敗臭にも硫化水素が混ざってます。生物の体には微量ですが硫黄が含まれているからです。硫黄化合物もごく微量では人体に害はないということです。

王朝時代の科学力では硫黄や硫黄化合物で暗殺は現実的ではありません。

しかも毒性のあるなし関係なく。銀は硫黄があると反応してしまいます。

銀針は砒素を調べている

それでは銀針で何を調べているのでしょうか?

それは「砒(ヒ)素」です。

ヒ素やヒ素化合物は非常に毒性が高く世界中で毒殺に使われました。毒の中では比較的入手しやすいのでヨーロッパでは遺産相続目当ての殺人によく使われました。

日本では「石見銀山ネズミ捕り」として使われたこともあります。

中国でも「砒霜」という名前で三酸化二ヒ素(As2O3)が使われました。水滸伝(13世紀ごろ南宋で誕生)にも出てくるくらいメジャーな毒薬です。中国では一番毒殺に使われていた毒薬で。中国で使われた毒の半分くらいはヒ素だったのではないかという説もあります。

ところがこのヒ素は無味無臭。人間の感覚ではわかりません。そこで銀針を使ったのです。

意外?銀針でヒ素はわからない

ところが。銀はヒ素には反応しません。

だからヒ素があっても銀は黒くなりません。

「ヒ素を調べるために銀針を使うって言ったじゃない!」と思うでしょう。

それは昔の中国の精製技術に原因があります。

純粋なヒ素は自然界には存在しません。鉱山でヒ素を採掘すると硫黄と混ざって出てきます。王朝時代はヒ素の精製技術が低くてヒ素に硫黄が混ざっていました。

ヒ素に硫黄が混ざったものに銀針をつけると銀は黒くなります。

だから昔の人は「銀でヒ素のある無しが分かる」と勘違いしてヒ素の判定試験に銀を使っていました。

お手軽な手段で毒殺を防げるなら銀針試験をやってみよう。となるのは当たり前かもしれません。

だから純度の低いヒ素しかない王朝時代の中国や朝鮮では銀針試験は行われていました。

ヒ素は中華圏では一番入手しやすい毒です。王宮だけでなく金持ちの家でも毒殺に使われたでしょう。そんな社会では身を守るために銀の箸を用意していおく。というのはあってもおかしくはありません。

でも現代では純度の高いヒ素を作れます。現代では銀試験は意味ありません。

 

意外と使えない銀針

こうしてお手軽な毒試験の方法として広まった銀針ですが。銀針は万能ではありません。それどころか意外と扱いが難しかったりします。

銀の反応しない毒が多い

銀が反応するのは硫黄です。硫黄を含んだ物質がないと銀は黒くなりません。硫黄以外の物質と銀は反応しにくいのです。

銀と反応しない毒は意外に多いです。

トリカブトやフグ毒、狩猟民が使うヤドクカエルの毒など生物から採取した毒。

シアン化物(青酸カリなど)には反応しません。

鉛や水銀化合物など多くの鉱物由来の毒にも反応しません。

硫黄を含まない毒はいくらでもあります。

銀針試験をすり抜けるのは簡単です。

日本で毒殺といえば「トリカブト」というくらいメジャーな毒でした。奈良時代には禁止令が出るくらいでした。

でも生物毒は銀では判定できません。高価な道具を使うわりに発見できる毒の種類が少ないのも日本で銀針試験が普及しなかった理由の一つです。

卵黄やお茶に反応する

卵黄や茶葉など、いくつかの食材には硫化物がふくまれています。お茶の香りの成分も硫黄を含む物質です。

なので気をつけないと卵黄を使った料理やお茶で銀針が反応してしまうことがあります。

例えば中国では皮蛋という卵を加工した食べ物がありました。硫化水素臭がするので銀針には反応するでしょう。皮蛋を食べて喉をつまらせて亡くなった場合。食べ物からは反応がでるでしょうから「毒殺された」ことになるかもしれません。

濃い緑茶に銀針を入れれば反応するでしょう。「毒が入っている」と疑われるかもしれません。

ちなみに。朝鮮では儒教が普及して仏教を弾圧したのでお茶を飲む文化がありませんでした。茶の文化は仏教とともに広がったからです。そのためお茶で銀が反応する心配はありません。(朝鮮の王族が飲んでいるのは菊花茶など、茶葉以外の植物から抽出した飲み物です)。

 

自然に酸化

銀製品を放置していたら黒ずんでいた。という経験がある方も多いでしょう。よく「酸化」と言いますが銀は酸素とはあまり反応しません。銀は自然界の硫黄成分と反応して黒くなっているのです。

火山地帯、温泉地帯だと空気中の硫黄成分も多くなるので酸化(実際には硫化)しやすくなるかもしれません。

銀針を置いておくだけで黒ずんだら「この部屋には毒が撒かれている。誰かが私を殺そうとしている」と疑う人がいるかも知れません。

あんまりあてにならない銀針試験

銀針試験にはいろいろ弱点がありました。

もちろん王室の医師たちは銀針が万能ではないことを知っているはずです。試験方法の一つとしては使いましたが、銀針に頼りきっているわけではありません。
 
結局のところ銀の箸やかんざしで毒試験をしているのはドラマの演出。
実際にはそれだけでは防げないので毒見役も必要です。
 
どちらかというと銀で毒がわかるという俗説ばかりが広まってしまったようです。
俗説を信じて銀箸を用意して安心して、別の毒でやられてる人もいたかもしれません。
 
銀針試験で分かるのは純度の低い硫黄の混ざったヒ素だけ。
中国・朝鮮ではヒ素を使用する割合が多かったので銀針試験を行っていた。
でもほとんどの種類の毒は銀ではわからない。
 
ということ。
 
結局。毒見役をおいておくのが一番確実なのですね。
 
 

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