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中国で皇帝や王の娘を「公主」と呼ぶわけ

公主 e ドラマが分かる歴史の知識

中国では皇帝や王の娘を「公主」と言います。

他にも朝鮮半島や渤海、ベトナムなど。中国の周辺にある漢字を使う国では王女を「公主」と書きました。

だから中国時代劇や韓国時代劇では皇帝や王の娘を「公主」とよんでいます。

漢字には高貴な女性を意味する「姫」や、そのモノスバリな「皇女」「王女」という表現もあります。漢字を使う国の王の娘=「公主」ではありません。

古代中国にも「王姫」という呼び方がありました。

なぜわざわざ「公主」という呼び方を作ったのでしょうか?

それは王と臣下の人間関係がかかわってきます。

また王の娘を意味する言葉にも様々なランクがあります。

中国王朝で王の娘が「公主」と呼ばれるわけと王の娘を意味する称号について紹介します。

 

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なぜ「公主」というの?

「公主」という言葉が使われたのは古代中国の春秋戦国時代(紀元前8世紀~紀元前3世紀)。

春秋時代より前の時代。周王朝では王の娘は「王姫」と呼ばれていました。

春秋戦国時代に王の娘を公主と呼ぶようになりました。

後漢時代に書かれた「春秋公羊伝」(しゅんじゅうくようでん)という書物によると。

「天子(皇帝)が女子(娘か姉妹)を諸侯(公)に嫁入りさせる時。天子は結婚式を主催しない。必ず同姓の者が結婚式を主催する」と書かれています。

諸侯とは王の配下になって大きな領地をもつ貴族たちです。日本でいえば大名みたいなものです。諸侯のことを「」といいます。

戦乱の時代、王は諸侯や有力者を手懐けるため娘を嫁がせました。

皇帝や王は自分の娘を嫁がせても自分では結婚式は主催しません。臣下の諸侯にやらせます。結婚相手の一族(同姓の者)で地位や名誉のある人が仕切るのです。

つまり。

(諸侯)が結婚式の催をするから「公主」なのです。

皇帝の娘の結婚式を主催できるということは。輿入れしてもらう諸侯にとっては大変に名誉なことです。

まるで公主は最初から政略結婚のために存在しているかのようです。

もちろん政略結婚はどの国にもあります。でも王の娘の称号は王族としての身分を主張するものが多いいです。王の娘に「臣下に嫁ぐのが前提」みたな称号をつけている国は他にありません。

春秋戦国時代になっても伝統を守る周では「王姫」の呼び方も残っていました。でも秦が周を滅ぼして「王姫」という呼び方はなくなりました。

以後「公主」といえば結婚しているしていないの関係なく「皇帝の娘」「王の娘」を意味する言葉になりました。

公主の読み方

「公主」と書いても発音は国によってさまざま。

中国では王朝によって発音が違います。なので中国ドラマの日本語版では音読みの「こうしゅ」で表現されます。

現在の中国語(北京語)では「グンジュ」と「コンチュ」の中間のような発音。中国南部では「コンジ」と「コンジュ」の中間のような発音。清朝(満洲語)の発音だと「グンジュ」。中国語は北京など北部は遊牧民族の発音の影響が強く。南京や香港など南部ほど古い漢民族の発音が残っています。

朝鮮では「コンジュ」。朝鮮の発音は中国が遊牧民に征服される前の発音に近いようです。ベトナムでは「コンチュア」に近い発音です。

 

王の娘の称号にもランクがある

前漢時代。

皇帝の娘は「公主

諸侯の娘は「翁主」と呼ばれました。

「翁」とは「歳とった男性」の意味です。結婚式を主催するのは婿の父=翁。だから「翁主」。

「公主」と考え方は同じ。でも字が違う。

ランク分けをいつも気にする中国では皇帝とそれ以下の王や諸侯は区別しています。

なので皇帝の娘は「公主」、諸侯たちの娘はワンランク下の呼び方として「翁主」と言いました。

朝鮮王朝では王の庶女(側室の娘)を 翁主(オンジュ)といいます。由来はここから。公主より「ワンランク下」の意味で翁主を使っています。

後漢時代になると「翁主」の呼び方は廃れました。

代わりに「郡主」「県主」という呼び方が誕生します。もっと称号のバリエーションが欲しいというわけですね。

漢では公主の称号「○○公主」の○○の部分に郡や県の地名を使いました。そこで郡公主、県公主と呼び方になり省略されて「郡主」「県主」になりました。

中国では「郡」が「県」より大きいので「郡主」>「県主」です。

さらにランクの低い諸侯の娘は「郷主」「亭主」といいます。

つまりランク順に並べると

(高い) 公主群主県主郷主亭主 (低い)

となります。

序列大好き、やたらとランク分けにこだわるのが中国流なんです。

それにしても群主、県主、郷主、亭主の称号は公の主、郡の主、県の主みたいなノリですね。公主の由来(公(諸侯)が主婚するひと)を忘れかけているような雰囲気です。

嫡女と庶女の違い

一般的な中国王朝の場合

儒教の普及した中国では嫡子・嫡女(正妻の息子・娘)と庶子・庶女(妾の息子・娘)は区別されます。

ところが意外なことに中国では嫡子・嫡女と庶子・庶女の称号に違いはありません。

皇帝の娘なら側室の子でも「公主」です。

娘の称号は父の身分で変わります。

息子も母が正室と側室で称号に差をつけるルールはありません。

清の場合

清朝だけは嫡女:固倫公主(グルングンジュ)と庶女:和碩公主(ホシュイグンジュ)で称号を使い分けわけます。

もともと満洲人(女真)の称号はおおざっぱで。ハン(王)の娘はゲゲ(格格)とよばれました。王族の娘ならみんなゲゲ(格格)です。

2代皇帝・ホンタイジの時代に国名を大清(ダイチン)に変えたときに中国風の称号を採用しました。そこで称号を細かく分けてみたのですが、でもやっぱりなじまない部分もあったらしく。皇帝の判断で庶女でも固倫公主にすることもありました。わりと融通がきくのです。

朝鮮の場合

李氏朝鮮は母の身分で嫡女(公主)と庶女(翁主)を区別して称号を変えます。4代世宗の時代にこの制度ができました。王の息子は嫡子は「大君」、庶子は「君」。男女ともに嫡子と庶子で称号が違います。

中国では儒教を「人々を支配する道具」として都合のいいところだけ利用しています。でも李氏朝鮮は儒教の信者が国を支配する国。だから隅々まで儒教の影響が強いのです。

 

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世代で違う公主の呼び方

その後、称号の使い分けも王朝によって変化しました。

唐の時代になると世代ごとに使い分けるようになります。

中国王朝では皇帝の娘は「公主

皇帝の姉妹は「長公主

皇帝の叔母・伯母。前の皇帝の姉妹は「大長公主」といいます。

世代をきっちり分けています。

歴史上の人物として紹介するときは世代に関係なく「〇〇公主」と紹介します。いちいち区別していられません。

でも本人が生きている時代の人々は「公主」「長公主」と使い分けしました。当然。皇帝が変わると「公主」だった人が「長公主」になったりします。

また

皇太子の娘は「郡主

親王の娘は「県主

とよばれるようになりました。

称号の意味

公主にはたいてい「○○公主」と称号がつきます。難しくは「封號(ふうごう)」と言ったりしますが、馴染みないので称号と呼ばせていただきます。

公主の称号にはいくつかのパターンがあります。

国名

国の名前から。

「代国公主」「寧国公主」など

国の名前がついているからといってその国の領主になっているとか。その国に領地を持っているわけではありません。

公主の生活費は朝廷が出しています。成長した公主には朝廷から領地が与えられます。でも称号の土地をもらえるのではありません。朝廷が管理しているどこかの土地です。

公主が暮らしているのは都か親や夫の領内。住んでる場所とは関係のない遠くの土地をもらっても税を集めるのが大変です。だから称号の地名と実際に所有している領地は関係ありません

本音と建前を使い分けるのが中国流です。

郡県名

「長楽公主」「平原公主」「平陽公主」など

郡や県の地名から。

ただし。県の名前が付いているからといって県主ではありません。公主の称号に郡や県の地名がついているのはよくあります。

公主・郡主・県主のランクわけと称号の元ネタになった地名は関係ありません。

郡や県の地名がついていてもその郡や県に住んでいたりその土地に領地を持っているのではありません。名前をもらってるだけです。

美称

美しい言葉、意味のいい言葉。縁起のいい言葉を称号にすることもあります。

「太平公主」「文成公主」「安楽公主」など

唐朝のころはシンプルでわかりやすいものが多いです。

明朝のころになるとだんだん複雑な漢字を使った称号。称号のために良い意味の漢字を組み合わせた造語が増えました。

「懐淑公主」「悼淑公主」など

朝鮮も明を参考にしています。朝鮮では地名はなく美称のみです。

清朝も明朝を参考にしていますが中国の地名にはこだわらず、良い意味の漢字を組み合わせます。同じ世代は同じ漢字を共有していることも多いです。

 

意味は分からないけど公主があたりまえになった

「公主」の由来は「公(諸侯)が結婚式の主催をするから」でした。でもその由来がどの程度広まっていたかはわかりません。

一般には「皇帝の娘だから公主」としか知られていなかったようです。

中華王朝の周辺国で漢字を採用した国は「文化の先進国で使ってるからかっこいい、オシャレ」と「公主」を使い続けました。また、冊封国(中華皇帝から国王の承認をもらってる国)では「中華王朝のマネをするのが文明国の証」と考えるところもありました。

現代の中国ではヨーロッパの「Princess」の訳語として「公主」を使ったりします。

だから「白雪姫」は中国では「白雪公主」になります。

日本の姫や内親王も人物名として紹介するときは「○○姫」「○○内親王」と書きますが。文章中で代名詞を使うときは「公主」と書くこともあります。

最初は「称号」だったはずですけれど。時代とともに普通に使われる言葉になって。現代の中国では「公主」が「王女」や「皇女」を意味する普通名詞になってるようです。

でも「公主」という言葉の裏には王と臣下の関係や王の娘が置かれた立場など複雑な意味が隠されていました。

華やかなイメージとは違い、公主のおかれた立場を考えさせられます。

 

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