韓国ドラマ「花郎(ファラン)」では王族や貴族たちの派閥争いが描かれます。
ドラマに登場する派閥は実在した氏族をモデルにしたものです。
新羅は金(キム)・朴(パク)・昔(ソク)の3つの王家が入れ替わり立ち替わり王をだしていました。
ドラマ「花郎(ファラン)」ではこの3つの氏族の争いが
金(キム)氏:太后派
朴(パク)氏:反太后派
昔(ソク)氏:中道派
の形で表現されています。
ドラマ「花郎(ファラン)」や「善徳女王」の時代は金氏の王が続いている時代。
「花郎(ファラン)」では朴氏のヨンシルが朴一族に王座を取り戻そうと狙っています。
ドラマに登場する派閥とその由来を紹介します。
新羅の3つの王家
新羅は建国以来、一つの王家が続いているのではなく。3つの王家が入れ替わり王を出してきました。
それぞれの王家は「真骨」とされ。貴族の中でもトップの地位にあります。現役王家に準ずる扱いをうけました。
それぞれの王族とそのルーツを紹介します。
主に高麗時代に書かれた歴史書「三国史記」をもとに紹介しますが。伝説的内容が強いので史実かどうかはわかりません。なんらかの出来事がもとになっているともいわれます。
朴(パク)氏 新羅の元になった国を作った人たち
新羅のもとになった徐那伐国の初代国王・赫居世居西干(かくきょせい きょせいかん)の子孫。
赫居世(かくきょせい)が名前、居西干(きょせいかん)が「王」を意味する称号。
姓は「朴」。
高麗時代に書かれた歴史書「三国史記」によれば。
朝鮮遺民が作った辰韓六村の村長が馬がいなないているのを見ました。そこに行くと大きな卵がありました。その卵から誕生したのが「赫居世」です。赫居世は辰韓六村の村人たちにまつり上げられて王になりました。辰韓六村(現在の韓国慶州市にあった地域)の村長たちは後の新羅の王侯貴族になります。
初代の王が卵から生まれるのは朝鮮半島によくある神話。偉大な人は普通じゃない生まれ方をするのは世界中の神話のお約束なのであまり気にしないことにします。
赫居世は捨て子か辰韓六村の村人ではないかもしれません。つまり別の所から来た可能性があるのです。それがどこかはわかりません。
古代の朝鮮とは?
辰韓六村の住民は朝鮮遺民です。
朝鮮といっても李成桂が建国した李氏朝鮮ではありません。高句麗の前に存在した国です。李氏朝鮮と区別するため古朝鮮といいます。古朝鮮には衛氏朝鮮、箕子朝鮮、檀君朝鮮が存在したといわれます。
「三国史記」には「朝鮮遺民」とだけ書かれているのでどの朝鮮なのかわかりません。
現代では実在が確認されているのは衛氏朝鮮だけです。
箕子朝鮮、檀君朝鮮は存在したかどうかはわかりません。
高麗時代には衛氏朝鮮と箕子朝鮮が実在したと考えられていました。高麗人は箕子朝鮮を自分たちの祖先だと思っていました。つまり中国人が祖先ということに誇りをもっていたのです。
衛氏朝鮮を作った満は古代中国の燕国出身。満の姓は「衛」といわれます。満は燕から逃げて朝鮮にやってきて地元の王(箕子朝鮮?)を滅ぼして衛氏朝鮮を建国しました。
箕子朝鮮は殷の時代に中国北部にいた人々が周建国のころ朝鮮半島に逃げて作った国といわれます。
檀君朝鮮は「三国遺事」という本に載っている伝説上の国です。「三国遺事」は13世紀の高麗で僧侶の一然が書いた説話集です。檀君朝鮮は天帝(帝釈)桓因の庶子の子・檀君王倹が建国しました。
桓因とは帝釈天の正式名シャックロー・デーヴァーナーン・インドラハの漢字表記・釋提桓因達羅(省略して釋提桓因とも書きます)が元ネタ。つまり仏教伝来以後に作られた仏教神話だとわかります。
檀君王倹は帝釈天の孫だったり1908歳まで生きたりと神話的要素が強いです。
実在が確実なのは衛氏朝鮮。箕子朝鮮も実在したかもしれません。どちらにしても建国者は古代中国の移民です。新羅の貴族たちは彼らを自分の祖先だと思っていたのです。
8代 阿達羅尼師からしばらく朴氏の王が途絶えています。統一新羅滅亡寸前の53~55代王は朴氏の王です。
ドラマ「花郎」の登場人物では
花郎のパンリュ。その養父パク・ヨンシル、パク・ホが朴氏。
主人公のライバル・王の敵側の人物です。
昔(ソク)氏 海の向こうから来た祖先は倭人?!
4代 脱解尼師今(だっかい にしきん)の子孫。
脱解(だっかい)が名前、尼師今(にしきん)は「王」を意味する称号。
姓は「昔」。
脱解は昔氏で最初の王。
「三国史記」によれば脱解は倭国の東北千里にある多婆那国の王の子供。不吉な子だとされたので海に流されて金官国(現在の釜山周辺にあった国、交易のため日本人居住区もありました)にたどり着きました。
脱解は金官国では相手にされませんでしたが斯盧(新羅)国王の婿養子になり王位を継ぎました。
脱解の出身地・多婆那国とは
多婆那国がどこかはよくわかりません。古代日本列島のどこかにあった国。倭国とは書かれていないので邪馬台国(九州か畿内)やヤマト(畿内)ではない可能性が高いです。
朝鮮半島と交易があった日本海側の人。丹波国(兵庫県から京都府北部。古代には丹婆とも書きました)が有力です。
このころの新羅で大輔(大臣)をしていたのが倭人の瓢公。瓢公は「姓は不明だが、もと倭人」と書かれているので日本列島から来たのでしょう。腰に瓢簞(ひょうたん)を下げていたので瓢公と呼ばれています。
ドラマ「鉄の王キム・スロ」に登場するソク・タレ=昔脱解(ソク・タレ)は脱解尼師今をモデルにしています。
16代 訖解尼師今を最後に昔氏からは王が出ていません。
ドラマ「花郎」の登場人物では
花郎のハンソン。郎徒のタンセ。祖父のソク・ヒョンジェが昔氏です。
ドラマの時代には衰退している一族です。
金(キム)氏 新羅の最盛期を作った人たち、祖先は遊牧民?!
味鄒(みすう)が名前、尼師今(にしきん)が王を意味する称号。
姓は「金」
味鄒は金氏で最初の王。
13代 味鄒尼師今(みすう にしきん)の子孫。何代か昔氏の王が続いた後。17代 奈勿尼師今から金氏の王朝が続きます。
中国の歴史書に「新羅」が登場するのは4世紀末の奈勿尼師今のころから。このころが事実上の国としての「新羅」ができた時期といわれます。
「三国史記」によると味鄒尼師今は 4代 脱解尼師今の時代に新羅にやってきた金閼智の子孫とされます。味鄒尼師今の後。金氏と昔氏の王がいれかわり続きました。17代 奈勿尼師今から24代 真興王までは金氏の王が続いています。その後もほとんど金氏が王位を独占します。
金氏の素性は諸説あります。
黄帝の子孫?
「三国史記」によると新羅王族の一族・慶州金氏は「軒轅(黄帝)の子(または孫)、少昊金天氏の子孫」と名乗ってました。黄帝は中国神話の神です。
「三国史記」が書かれた高麗時代初期には金氏は中国に起源があると思っていたようです。
匈奴の子孫?
でも、もっと古い時代には金日磾の子孫を名乗っていました。
金日磾とは前漢に投降した匈奴人。匈奴(きょうど)は紀元前のモンゴル平原で大帝国を作った騎馬遊牧民族です。
日磾は匈奴の休屠王の太子です。王が天を祀るため使っていた黄金の像(金人)にちなんで「金」の姓を名乗りました。
金日磾の子孫は代々漢に仕えました。
30代文武王(武烈王=金春秋の息子)の陵碑には金日磾の子孫と書かれています。王墓の副葬品が匈奴との類似点があるなど。韓国でも慶州金氏は匈奴が祖先という意見があります。
金日磾と新羅の関係は不明です。新羅王家の金氏と金日磾は血は繋がってなかった可能性もあります。でもわざわざ金日磾に系譜をつなげたのは文武王時代の金氏に「自分たちの祖先は匈奴だ」という想いがあったからですし、隠すつもりもなかったのです。
王族を「黄金」に関係する言葉で呼んだり(モンゴルなど遊牧民は王族を「黄金の一族」といいます、清朝を作った愛新覚羅氏のアイシンも金の意味です)。血脈を「骨」と表現するのも北方遊牧民の特徴です。
慶州金氏は匈奴の子孫かもしれないのです。匈奴でなくても別の騎馬遊牧民(東胡や鮮卑など)かもしれません。
騎馬民族征服王朝説は朝鮮半島の出来事だった
昭和の都市伝説に「騎馬民族征服王朝説」がありました。「大和朝廷を作ったのは北東アジアから来た騎馬民族だ」という説。東大名誉教授の江上波夫氏が発表したフェイクニュースです。よく考えれば嘘とわかる作り話ですけれど。なぜか昭和のオジサン世代にはウケました。
江上波夫氏は北朝鮮でも歓迎され北朝鮮好きになったようです。「騎馬民族」が王になったのは日本ではなく、新羅や高句麗の可能性が高いのですから金総書記に「あなたの祖先は檀君ではなく匈奴だ」と言えば良かったのに。と思います。
中華文明に憧れて出自を変えた?
新羅王はある一時期までは匈奴が祖先だと認めていました。
でも。新羅が三韓を統一して唐の文化が押し寄せると金氏は匈奴の子孫と名乗るのをやめて黄帝の子孫を名乗るようになります。中華思想が広まって遊牧民は野蛮人という考えが定着したので祖先が匈奴だったのを隠すようになりました。そして現在に至ります。
でも4~6世紀の新羅は北方の騎馬遊牧民族の影響が強い国でした。新羅時代の遺跡でペルシャやローマの影響がある品物が発掘されるのは騎馬遊牧民と取引していたからです。騎馬遊牧民はシルクロードを使って広い範囲で商売をしていました。新羅人が西域に行っていたわけではないのです。
現代のドラマでは野蛮人として描かれることが多い遊牧民ですが、実は高度な製鉄と織物の技術をもっています。金を加工して装飾品を作るのも得意です。漢が進出する前の朝鮮半島で製鉄が盛んだったのは匈奴の技術が入ってきたからです。
新羅は金氏王朝の時代に急激に領土を拡大します。武力に優れた騎馬軍団や鉄の武器をうまく使っていたのかもしれません。
ドラマ「花郎」の登場人物では
真興王はもちろん。只召太后(同族結婚です)、淑明王女。主人公のムミョン、ヒロインのアロ、キム・アンジ、マンムン、只召太后派の花郎スホ、キム・スプ、スヨンも金氏です。
主人公とその味方に多いです。
多民族国家だった新羅
新羅には王侯貴族をみても3つの派閥があったわけです。庶民も含めると様々な民族が暮らしていました。
言語や文化などを考えると元になった民族は北アジアの民族だったのかもしれません。でも様々な民族が移り住んで様々な文化が入りました。
新羅には高句麗や百済からの移民もいましたし、中国側からの移民もいます。日本列島から来た人もいたかもしれません。
すくなくとも初期の新羅は様々な地域の人々がやってくる活気のある多民族国家でした。高句麗や百済に比べると発展途上でしたから外から来る人にオープンだったのです。
様々な出自をもつ人たちの集団がドラマでは派閥争いという形で表現されています。そういう視点で見てみるとドラマも違った面白さがあるかもしれません。
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