韓国ドラマ「帝王の娘スベクヒャン」では百済の武寧王の娘スベクヒャンが登場します。
スベクヒャンは本当にいたのでしょうか?ドラマのHPを見ると
6世紀の百済を舞台に、第25代武寧王の娘として実在した人物をモチーフに描いた大型歴史ドラマ。
番組公式HPより。
と書いていますね。
でも百済にスベクヒャンという人は実在しません。
「名前は違っても武寧王の娘がモデルでは?」と思うかもしれません。でも歴史書には武寧王に娘がいたとは書かれていません。
ではいったい誰がスベクヒャンのモデルになったのでしょうか?
スベクヒャンの元になった人物は何者なのか紹介します。
スベクヒャンの正体は日本人・手白香皇女?
ドラマでは武寧王に娘がいます。
でも歴史上は武寧王に娘がいたとは書かれていません。武寧王の娘そのものが架空の存在です。
日本ではドラマタイトルは「帝王の娘スベクヒャン」。カタカナですが本当は漢字があります。「スベクヒャン」を漢字で書くと「守百香」。
「帝王の娘 守百香」となるのです。
でも韓国で番組が企画されたとき、最初は「手白香」でした。
「守百香」と「手白香」は韓国語では同じ発音「スベクヒャン」なのです。
手白香とは誰?
手白香とはいったい何でしょうか?
「手白香」は日本の皇族。手白香皇女(たしらかのひめみこ)です。
手白香皇女は第24代仁賢天皇(にんけんてんのう)の娘です。
彼女は第26代継体天皇(けいたいてんのう)と結婚しました。
手白香皇女が結婚した継体天皇とは誰?
継体天皇はおよそ1500年前の人物。日本がまだ倭(やまと)と名乗っていた時代。武烈天皇に跡継ぎがいなくて皇室断絶の危機がありました。
そのとき大王家に仕えていた大伴金村(おおとも の かなむら)たちの尽力で天皇(当時は大王(おおきみ・すめらみこと)になったのが継体天皇です。
大伴金村は大伴旅人の祖先。大伴旅人は「令和」の元号のもとになった梅花の歌会を主催して序文を詠んだ人ですね。
継体天皇は近江(滋賀)生まれで越の国(福井から新潟の地域)育ちともいわれます。応神天皇の子孫といわれていますが血縁関係が薄いので大和(奈良)の本家の娘・手白香皇女と結婚して天皇家を継承しました。現在の皇室の祖先です。
韓国の歴史愛好家の妄想から生まれたスベクヒャン
ではなぜ日本の皇室の祖先を韓国で百済人としてドラマ化したのでしょうか?
実は韓国の民間の歴史愛好家の妄想が原因です。
その歴史愛好家は「継体天皇は百済王のおかげで即位した。だから継体天皇の妃の手白香皇女は百済の王女だ」と主張したことがあるからです。
もちろん継体天皇は百済王の助けは受けていません。当時の日本=倭(やまと)と百済の力関係をみればそれは無理です。滅亡寸前から立ち直ったばかりの百済に外国に介入する余裕はありません。
ここでちょっと歴史のお勉強。
「帝王の娘スベクヒャン」のドラマの舞台になってる5世紀の百済の立場をおさらいしましょう。
滅亡の危機にあった百済
5世紀の百済は高句麗の長寿王に都を奪われ蓋鹵王や王族が殺されました。一度は滅びかけた国です。蓋鹵王の息子が生き延びて文周王になって百済を再建しました。
文周王が家臣に殺された後、倭(やまと)に来ていた王子が百済に帰って東城王になって復興させました。
5世紀の百済は倭(やまと)に援軍を頼む代わりに大陸の物や人質を送っていました。人質といっても王族は国賓扱いなので待遇は良かったようです。
国と国の外交上の取引なのでどちらが上とか下という問題ではありません。
百済を復興させた東城王ですが晩年は横暴になったようです。重臣のペク・カたちに殺されます。
そのあと即位したのが武寧王です。武寧王は国を発展させ、百済を高句麗や新羅とまともに戦えるようにしました。
つまり、百済はどうやって滅亡を防ぐか?どうやって復興させるか?が最優先。
倭(やまと)の問題に関わっている余裕はないのです。むしろ新羅や高句麗と戦うためには倭(やまと)の援軍がほしい時代です。
この後になると百済は大陸から仕入れた最新の技術や文化、品物を倭(やまと)に惜しげもなく送って軍事的な援助をしてもらおうとします。百済から日本への仏教伝来もその流れの中にあります。
現在では文化的交流と紹介されることもありますが、そのようなお気楽なものではありません。国と国が生き残りをかけた戦いや外交、かけひきです。
ドラマ「帝王の娘スベクヒャン」はこのあたりの時代をモデルにしています。
史実は無視。面白ければそれでいい?
さすがに韓国の歴史学者も「百済王の娘が継体天皇の妃になった」とは考えていません。
1970年代に韓国のアマチュア歴史愛好家が考えた作り話です。笑い話のようですが韓国では妄想でも面白いと思えば本当だと信じる人もいるのですね。ドラマはその影響を受けてるのです。
韓国のネットニュース上でも問題になっていました。
9月30日に初放送されたMBC連続ドラマ「帝王の娘スベクヒャン」は5世紀後半から6世紀前半に生存したスベクヒャン(手白香、日本名たしらか)を扱ったドラマだ。 このドラマは放映前から歴史歪曲論議に包まれた。 日本の王族と記録されたスベクヒャンを、このドラマでは「百済武寧王の姫」として扱っているからだ。
出典:OhMyNews
帝王の娘のスベクヒャン、本当に百済のお姫様だったのだろうか?
(リンク先は韓国語サイトです)
そこで制作スタッフは漢字の「手白香」を「守百香」に変更して、日本とは関係のない人物にしたというのです。
制作スタッフは「歴史を歪曲しているのではない」と説明したようですが、手白香皇女を意識しているのは間違いありません。日本では公表できない裏話が韓国では話題になったんですね。
なぜこのような事がおきるのか不思議です。どうやら韓国の人たちの中には日本に皇室があることが羨ましく思っている人がいるようです。皇室に百済人の血が流れていると思うと嬉しいのでしょう。
つまり。日本のルーツは韓国にあると言いたいのです。
韓国によくある「ウリジナル思想」というもののひとつ。ウリジナルとは「ウリ=韓国語で我々」と「オリジナル=英語」で起源をあわせた造語です。
戦前の日本でも話題になった「ジンギスカンの正体は源義経」と同じフェイクニュースです。韓国ではこういう種類の話が多いです。
でもさすがに日本の皇族の名前「手白香」を使うのは韓国国内でもいろいろな意味で「まずいのでは」という意見があったらしいです。
日本人でもほとんどの人は手白香皇女(たしらかのひめみこ)を知らないと思います。でもそれが韓国でドラマのタイトルになってるのです。日本人ですら知らない大昔の皇族に注目するとは何という熱心さでしょうか。すごいですね。
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