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『ホ・ジュン』の九鍼の戯は実在する?史実の九鍼と鍼勝負の由来を解説

韓国ドラマ『ホ・ジュン~宮廷医官への道~』『ホ・ジュン~伝説の心医者~』には、医師が生きた鶏に鍼を入れて腕を競う「九鍼の戯」が登場します。

「九鍼の戯」とは本当に存在したのでしょうか?

九本すべての鍼を扱えれば最高の医師と認められるという鍼医にとって名誉を懸けた勝負です。古代中国の名医・華佗(かだ)が始めた技とも語られるため、本当に昔の医師たちが行っていたように見えますね。

九鍼という名称は、古代中国の医学書に記された実在のものです。でも鶏に鍼を入れて医師の技量を判定する「九鍼の戯」については資料や華佗の伝記を調べても確認できませんでした。

この記事では、『ホ・ジュン』に登場した九鍼の戯を振り返りながら、本来の九鍼がどのような医療器具だったのかを紹介します。

 

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『ホ・ジュン』に登場する九鍼の戯とは?

『ホ・ジュン~宮廷医官への道~』『『ホ・ジュン~伝説の心医者~』(以下ホジュンとだけ書きます)に登場する九鍼の戯は生きた鶏に鍼を刺して鶏が痛がったり殺さずに何本の鍼をうてるかを競う勝負です。

医師には鍼を扱う技術だけでなく、鶏の筋肉や骨、内臓の位置を正確に把握する知識も求められます。鍼を入れる場所を間違えば鶏を傷つけたり死なせたりする可能性があります。

 

生きた鶏に九本の鍼を入れる勝負

ドラマ『ホジュン』で描かれた九鍼の戯では次のような規則が定められていました。

  • 生きた鶏に鍼を入れること
  • 鶏を死なせたり、苦しませたりしてはいけない
  • 体に入れられた鍼の本数によって、医師の技量が決まる
  • 九本すべてを完璧に扱えれば、最高の医師とされる

作中では、扱える本数によって医師の呼び方が変わります。

  • 5本:凡医(ぼんい)
  • 6本:巧医(こうい)
  • 7本:明医(めいい)
  • 8本:大医(たいい)
  • 9本:太医(たいい)

という名前がつけられていました。でもこれは劇中の設定です。朝鮮王朝の医療制度に鶏へ入れた鍼の本数で医師を凡医や大医に分ける方法があったわけではありません。

 

ユ・ウィテとヤン・イェスの因縁

ドラマの中でこの話が出たのはユ・ウィテの息子・ユ・ドジが科挙に落第。落胆するドジにに内医院の医官がその理由を話しました。

ユ・ウィテと御医のヤン・イェスには深い因縁があるというのです。

ヤン・イェスは実在した医官でドラマでも朝鮮王朝の宮廷医療を担当する内医院で御医を務める人物です。御医は国王を診察する医官であり、医官の中でも特に高い地位にありました。

ユ・ウィテは地方で患者を診ている町の医師です。しかし、鍼や診察の技術ではヤン・イェスを上回るほどの実力を持っていました。ところがユ・ウィテは科挙に落第。納得のいかないユ・ウィテはヤン・イェスのもとを訪れ九鍼の戯で勝負を挑みます。

その結果、ユ・ウィテはヤン・イェスに勝ちました。ヤン・イェスとその取り巻きは地方の医師に敗れた出来事は忘れられない屈辱になりました。十数年後になっても、その敗北はヤン・イェスと取り巻きにはそのことが心に残っていて。ドジの落選に影響したのです。

 

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九鍼の戯は本当に行われていたのか?

ドラマの中では華佗が考案したといわれる九鍼の戯ですが。古代中国や朝鮮王朝で鶏を使った九鍼の戯が実際に行われていたという記録はありません。

「九鍼」という医学用語は実在します。でも史料に書かれている九鍼と、ドラマに登場する九鍼の戯は違うものです。

鶏を使った九鍼の戯は存在しない

中国の古典医学書『黄帝内経』には九鍼について説明した「九鍼十二原」「官鍼」「九鍼論」などがあります。

そこに書かれているのは、鍼の形や長さ、使い方が違う九種類の医療器具と、その使い分けが説明されています。

「九鍼」という言葉が存在して、9種類の鍼が存在したもの事実ですが。

その「九鍼」を鶏に入れる競技や扱えた本数によって医師の等級を決める制度はありません。ドラマの為に作られた架空の競技なのです。

 

華佗が始めたという話は本当なのか?

劇中では九鍼の戯は後漢末の名医・華佗が考案したと説明されています。

確かに華佗は実在した医師です。『三国志』や『後漢書』には華佗が薬や鍼を使って患者を治療したことが書かれています。腹部を切り開く治療を行ったという逸話もあり、後世には中国を代表する伝説的な名医として知られるようになりました。

でも華佗が鶏に九本の鍼を入れる勝負を始めたという記録はありません。

名医といえば「華佗」がすぐに思い浮かべるため、朝鮮や中国王朝で医療ネタに権威やありそうな感じをもたせる言葉として使われているようです。

 

設定自体に無理がある

九鍼とは急種類の鍼のこと。戯とは「たわむれ」。つまり九種類の鍼を使った遊び。

という意味です。名前だけをみても現実にはありそうもない。架空の設定だと思える内容です。

それに、しかも鍼を体に入れたまま動かしたらすごく痛いです。これは鍼が皮膚や筋肉へ入った状態で体を動かすと、筋肉の収縮によって鍼が周囲の組織に押されて痛みが出るのです。

とくに深く入った鍼は体を動かしたときに位置がずれたり、鍼先が周囲の組織を刺激したりします。実際の鍼治療でも、鍼を入れている間は施術者に言われた通りの姿勢を保つのが一般的です。ドラマのように10センチ近くもある長い鍼ならなおさらです。

腕がいいとか悪いとかの問題以前に、鍼や生物の体の仕組みからいって鶏が痛がらずに動き回るのは不可能なのです。

 

史実の九鍼とは?

九鍼の戯は架空の存在ですが。「九鍼」という言葉は実際にあります。

九鍼とは形や長さ、太さ、先端の作り使い道が違う九種類の医療器具をまとめた名前です。

『黄帝内経』の『霊枢』では、病気がある場所や症状によって適切な鍼を選ぶ必要があると説明されています。体の表面に使う器具もあれば、深い場所へ入れる鍼や、血や膿を外へ出すための器具もありました。

九鍼は九本ではなく九種類の器具

「九鍼」は九本の鍼という意味ではなくて、器具の種類のことです。

現在の鍼灸院では鍼といえば細い針のことですが。この時代の鍼は金属製の細い医療器具はまとめて鍼と呼ばれていました。皮膚へ当てて刺激する器具や、小さな刃物に近いものも含まれています。

現在なら鍼灸、瀉血、外科処置に使われる治療器具がまとめて「鍼」と呼ばれていたんですね。

 

九種類の鍼とその用途

九鍼の名称と用途は次のようになっています。

名称 読み方 形と主な用途
鑱鍼 ざんしん 先端が鋭く、皮膚の表面へ刺激を与える器具
員鍼・円鍼 えんしん 先端が丸く、皮膚や筋肉を押したり、こすったりする器具
鍉鍼 ていしん 先端を皮膚へ当て、経脈を刺激する器具
鋒鍼 ほうしん 先端に三つの角があり、血を外へ出す処置に使う器具
鈹鍼 ひしん 小刀に近い形をしており、腫れ物を開いて膿を出す器具
員利鍼・円利鍼 えんりしん 胴に丸みがあり、先端が鋭い鍼。急な症状や深い場所への治療に使う
毫鍼 ごうしん 毛のように細く、体内の経穴へ入れる鍼
長鍼 ちょうしん 長い形をしており、筋肉の奥など深い場所に使う鍼
大鍼 だいしん 太く大きな鍼で、関節付近に水分がたまった症状などに使う

九種類の鍼は、すべて同じ方法で使われたわけではありません。

皮膚の表面へ当てるだけの器具もあれば、体内へ入れる鍼もありました。血を外へ出したり、腫れ物を開いたりする器具も含まれています。

鑱鍼、大鍼といった針の名前と器具そのものはドラマ『ホジュン』でも登場しましたね。

また、『霊枢』の「九鍼論」では、九鍼を天・地・人や四季など、古代中国の自然観と結びつけて説明しています。九という数字には完成した数という意味が与えられていました。

 

現在の鍼治療につながる毫鍼

九鍼の中で現在の鍼灸治療に最も近いものが毫鍼です。

「毫」は細い毛を意味します。毫鍼は名前のとおり、毛のように細長い鍼です。

現在の鍼灸院で一般的に使われている細い鍼を経穴へ入れる治療は、古代では毫鍼に近いものになります。

でも現在の鍼は衛生面や安全性を考えて作られていて、一本ずつ包装された使い捨ての製品も広く使われています。材質や製造方法は古代の毫鍼とは違います。

ドラマでは、映像で針と分かりやすく見せるため、および安全や衛生面を考えて現代の細くて持ちてのついた針が使われている事が多いです。王朝時代の毫鍼にも似た形のものはありますが。画面に映る鍼そのものが当時の鍼の標準的な姿だったとは限りません。

 

『ホ・ジュン』の九鍼の戯と史実の九鍼の違い

ドラマの九鍼の戯と、古代医学書に記された九鍼には、次のような違いがあります。

比較項目 ドラマの九鍼の戯 史実の九鍼
内容 生きた鶏に鍼を入れて医師の腕を競う 形や用途が異なる九種類の医療器具
目的 鍼医の技量を判定する 病気や患部に応じて器具を使い分ける
九の意味 九本の鍼 九種類の鍼
華佗との関係 華佗が始めた技として語られる 華佗との関係は確認できない
記録 古代史料では確認できない 『黄帝内経』の『霊枢』に記載されている
医師の評価 鍼の本数によって凡医や大医などに分ける 本数で医師の等級を決める制度はない

というわけで『ホ・ジュン』の九鍼の戯は実在した九鍼の知識をもとに作られたドラマ用の鍼勝負といえますね。

 

まとめ

『ホ・ジュン』に登場する九鍼の戯は生きた鶏に鍼を入れ、扱えた本数によって医師の技量を競う勝負です。

ユ・ウィテがヤン・イェスを破ったエピソードで紹介されました。この関係が二人の間に因縁を作り、その後のユ・ドジの人生にも影響しました。ドラマの中でも重要な場面になっています。

でも鶏を使った九鍼の戯は実在しない架空の勝負です。華佗が始めたという話もドラマのために作られて設定です。

九鍼そのものは、『黄帝内経』の『霊枢』に記された実在の医療器具です。これは形や使い方の違う九種類の医療器具のことです。

 

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執筆者:フミヤ(歴史ブロガー)
京都在住。2017年から韓国・中国時代劇と史実をテーマにブログを運営。これまでに1500本以上の記事を執筆。90本以上の韓国・中国歴史ドラマを視聴し、史実とドラマの違いを史料(『朝鮮王朝実録』『三国史記』『三国遺事』『二十四史』など)に基づき初心者にもわかりやすく解説しています。類似サイトが増えた今も、朝鮮半島を含めたアジアとドラマを紹介するブログの一つとして更新を続けています。

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