韓国ドラマ『ホジュン』では、ク校理の不審死をめぐる事件で 斑猫(ハンミョウ)という毒が登場し、ホ・ジュンがその正体を突き止めます。
劇中のハンミョウの毒には実在する毒成分カンタリジンが関係していますが、日本でよく知られる美しいハンミョウとは別の虫です。
ドラマで描かれた毒の特徴と史実・生薬としての斑猫/斑蝥(ハンミョウ)との違いを紹介します。
この記事で分かること
- 『ホジュン』でハンミョウが登場する場面とク校理の不審死
- ハンミョウの毒成分カンタリジンが人体に及ぼす作用
- 日本のハンミョウと生薬「斑蝥」が別物である理由
- 斑蝥が実際に薬や毒としてどのように扱われていたのか
韓国ドラマ『ホジュン〜伝説の心医〜』。劇中では、ハンミョウという虫から採取された猛毒が物語を大きく動かす場面があります。
ドラマ『ホジュン』には、ハンミョウという虫から取れる強い毒が登場します。日本人が「ハンミョウ」と聞くと、道端で見かける青や緑に輝く美しい虫を思い浮かべるかもしれません。
しかし、ドラマに出てくるハンミョウは、日本で一般的にハンミョウと呼ばれている虫とは別の仲間です。あのように綺麗な虫に、本当に人を殺めるほどの毒があるのでしょうか。
ドラマ『ホジュン』で描かれたハンミョウの毒
イ・ジョンミョンの友人・ク校理が不審死
ドラマ『ホジュン〜宮廷医官への道〜』40話前後、『ホジュン〜伝説の心医〜』35・36話でハンミョウが物語のアイテムとして登場します。
ホジュンが恵民署で働いていていた頃、武官のイ・ジョンミョンの友人 ク校理(ク・テウン)が不審死したことからハンミョウの毒が発覚します。
宮廷の重臣であるク校理が突然息を引き取った際、当初は持病の悪化による病死と判断されていました。しかし事件の裏には右議政らによる陰謀が隠されていたのです。
謎の粉末と「斑猫(ハンミョウ)」の特定
ク校理に薬を運んでいた下吏が謎の自殺を遂げ、その遺品から正体不明の怪しい粉末が発見されます。
医官のホ・ジュンは、武官のイ・ジョンミョンとともにその粉末を調査。ホ・ジュンは粉末の匂いや性質を細かく検分し、それが朝鮮では容易に入手できない猛毒「斑猫(ハンミョウ)」であることを突き止めます。
劇中での「ハンミョウの毒」の効能・特徴
ドラマの中ではホ・ジュンによってハンミョウの毒性が次のように説明されます。
- 明(中国)での用途:微量であれば解毒剤や特定の薬として用いられることもある。
- 蓄積性による暗殺:長期間にわたって少しずつ服用させると、体に毒が蓄積され、まるで「持病が悪化して死亡した」かのように見せかけてターゲットを絶命させることができる。
即効性の毒ではなく、ジワジワと体を蝕んで病死を装うことができる点こそが、陰謀の道具としてハンミョウが選ばれた理由でした。
入手経路の捜査と密貿易
朝鮮内では手に入りにくい稀少な猛毒であったため、イ・ジョンミョンはホ・ジュンにハンミョウの入手経路を秘密裏に調べるよう依頼します。
ホ・ジュンは命じられて清(明)との密貿易を行う商人と会い、イ・ジョンミョンがその場を取り押さえ誰がこのハンミョウを買い付けたのかという真相へと迫っていくことになります。ただし、黒幕の追求そのものは高官の圧力によって潰されてしまします。
ハンミョウの毒「カンタリジン」とは?
劇中で描かれたハンミョウの毒の正体は「カンタリジン(Cantharidin)」という成分です。
カンタリジンとはどんな成分?
カンタリジンは、ツチハンミョウ科やマメハンミョウ科といった一部の甲虫が体内に持っている生体毒(有効・毒性成分)です。虫自身が外敵から身を守るための防御物質として分泌するもので、無色無臭の結晶性物質ですが強い刺激性と毒性を発揮します。
体に及ぼす作用
カンタリジンが皮膚につくと強い炎症を起こし水ぶくれができます。生薬としても使われており、イボを取ったり、膿出しなどの外用薬や、利尿剤などとして使われました。
ただし毒性があるので、量によっては口や喉、胃や腸の粘膜を傷つけ、腹痛や嘔吐、血尿などを起こすことがあります。量が多ければ腎臓などにも障害が出て、命にかかわることもあります。
そのため斑蝥は昔から作用の強い薬材として扱われていました。明代の『本草綱目』でも斑蝥は「有毒」と記され、生のまま使うと嘔吐や下痢を起こすことがあると書かれています。
カンタリジンの致死量は10 mgから65 mgとされていますが、個人差が大きく175mg摂取しても生存していたという記録があります。ただしこれはカンタリジンの致死量でありハンミョウの重さではありません。
『ホジュン』ではハンミョウが人を害する毒として登場します。亡くなったク校理はもともと消化器系の疾患のある人で、そこにこの虫の毒性が加わることで命を落とした設定になっています。
現実のハンミョウには本当に毒がある?
本物のハンミョウに毒はない
ドラマを観ていて本当にハンミョウに毒があるの?と思ったかも知れません。
「ハンミョウ」と聞けば日本の野山や道端で見かける、カラフルな虫を思い浮かべる人が多いはずです。日光を浴びて赤や青、緑色の金属光沢に美しく輝き、人が近づくと足元を導くように少し先へ跳んでいく「道教え(ミチオシエ)」の別名でも親しまれているあの昆虫です。

ハンミョウ(ミチオシエ)
あんなに小さく美しい虫から毒が得られるのでしょうか?
この「ハンミョウ」には毒はありません。噛まれると痛いですが、毒は持っていないので安心してください。
斑蝥はハンミョウとは別の虫だった
実はドラマ『ホジュン』に登場する斑蝥(ハンミョウ)は、日本で日常的に「ハンミョウ」と呼んでいるあの虫とはまったく別の虫から作る薬・毒のことです。
中国や朝鮮で「斑蝥」「斑蝥」と呼ばれているのは芫菁という昆虫から作る生薬です。
芫菁の一種・紋芫菁はこのような外見をしています。

斑蝥をとるツチハンミョウ科の仲間 紋芫菁
芫菁は日本ではツチハンミョウと呼ばれています。ツチハンミョウはハンミョウと名前が似ていますが別の種類の生き物なんですね。
日本のハンミョウとは別の虫
ここで注意したいのは、中国や朝鮮で「斑蝥」と呼ばれた虫と、日本で普通に「ハンミョウ」と呼ばれる虫は全く別の虫だということです。
分類でいうとこのようになります。
この図で「芫菁」と書いているのが生薬の斑蝥がとれる生物の名前です。
- コウチュウ目(鞘翅目)
- オサムシ亜科(食肉亜目)
- オサムシ科
- ハンミョウ亜科
- ハンミョウ (一般的な日本のハンミョウ)カンタリジンなし
- ハンミョウ亜科
- オサムシ科
- カブトムシ亜科(多食亜目)
- ゴミムシダマシ上科
- ツチハンミョウ科
- 芫菁(中国のハンミョウ)カンタリジン有り
- ツチハンミョウ・カンタリジン有り
- マメハンミョウ・カンタリジン有り
- ツチハンミョウ科
- ゴミムシダマシ上科
- オサムシ亜科(食肉亜目)
生物学的な分類を見ても違う生き物なのです。
それに「斑蝥」とは生薬の名前のことであって、虫の名前ではありません。でも昔の文献では虫の名前も斑蝥と書かれていたりするのでややこしいです。
なぜ違う虫なのに「ハンミョウ」と呼ばれるの?
カラフルな昆虫「ミチオシエ」がなぜ斑蝥(ハンミョウ)と同じ虫になってしまったのでしょうか?
その理由は江戸時代にあります。江戸時代初期、中国から『本草綱目』という書物が日本に伝わったとき、記載されていた「斑蝥」を日本のハンミョウ科の綺麗な虫「ミチオシエ」に誤って当てはめてしまったのです。
この誤解によって、ミチオシエは毒をもつ生き物と同じ名前をもつことになってしまいました。
斑蝥は実際に毒として使われたのか?
斑蝥は病気の治療薬として使われる一方で、毒としても古くから知られていました。明代の本草書(医薬書)にも薬材として記録されていますが、用量を慎重に調整しなければ中毒を起こすリスクがありました。
だからといって、これで暗殺が出来るほど強力というわけでは有りません。ハンミョウの毒を使って要人暗殺をしたという記録は見つかっていません。
ただし毒があるのは確かなので使い方を謝れば死に至る可能性はあります。危険には違いないが暗殺用の毒としては確実ではないのですね。
まとめ:『ホジュン』の描写は完全な作り話ではない
まとめると、ドラマ『ホジュン』に登場するハンミョウは以下のようになります。
- 斑蝥・斑猫(ハンミョウ)は本来は虫の名前ではなく生薬の名前。
- 斑蝥・斑猫は中国にいる芫菁という虫を乾燥させて作る。
- その虫は「カンタリジン」という毒を持っている。
- 芫菁は日本にいる綺麗なハンミョウとは違う。ツチハンミョウ科の虫である。
ドラマでは斑蝥は毒性は高くないので気づかれにくいというトリックを用意していました。ドラマとしての誇張された演出はあるものの、昔の生薬知識と実在する虫の毒性をうまく組み合わせた設定だと言えます。
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