中国ドラマ「長安賢后伝」の沐王妃(もくおうひ)にはモデルになった人物がいます。
大福普 アバハイです。
アバハイは後金のハン・ヌルハチの4人目の正妻です。
アジゲ・ドルゴン・ドドの三人の息子がいました。
「長安賢后伝」は「孝荘秘史」のリメイク作品ですから。清朝の人物がモデルになっています。
沐王妃のモデルになったアバハイとはどのような人物だったのか紹介します。
ドラマ「長安賢后伝」の沐王妃
盛州王 蕭尚遠の王妃
第九王子 蕭承煦、第十王子 蕭承軒の生母。
毒を受けて死にかけた蕭尚遠の直前、蕭尚遠が蕭承煦を次の王に望んでいたことを知りますが。王子たちが出かけていて打ち明けられません。
その後、次の王に蕭承睿を支持する第四王子・蕭承耀と第五王子・蕭承泰は蕭承煦を殺害しようとしますが。蕭承睿に止められます。
蕭承睿は沐王妃を殉死させることで手を打ちました。
沐王妃は息子たちの身の安全と引き換えに自害することに。
沐王妃の殉死は「蕭尚遠の遺言」ということにされるのですが。
沐王妃のモデル アバハイとは?
ドルゴンは後金から清朝初期の人物。
日本では江戸時代初期になります。
フルン四国のひとつウラ部の王・マンタイ(満泰)の娘。
姓はウラナラ氏。
アバハイの一族ウラナラ(烏拉那拉)氏は西海女直の名門。ナラ氏はアクダの建国した金国時代から続く名門。ウラナラ氏はその子孫です。ウラという場所に移り住んだナラ氏だから「ウラナラ」と名乗りました。家柄としてはヌルハチのアイシンギョロ(愛新覚羅)氏よりも古くて由緒ある家系です。
西海女直はハダ・イェヘ・ウラ・ホイファの4つの部族に分かれていました。4つの部族は同盟してフルン四国を結成。ヌルハチのマンジュ国に対抗していました。ところがフルン内部でも領土争いが起こり、ウラ国の王だったマンタイはマンジュ国のヌルハチに助けを求めました。結局、マンタイは内紛で死亡。
マンジュ国に人質として行っていたマンタイの弟・ブジャンタイが帰ってきてウラ国王になりました。アバハイはブジャンタイに育てられました。
マンジュ国との同盟を強化しようとしたブジャンタイはアバハイをヌルハチに嫁がせました。
12歳のアバハイは42歳のヌルハチと結婚。
若いアバハイはヌルハチから寵愛をうけました。
大福普(王妃)モンゴジェジェ(ホンタイジの生母)の死後。アバハイが大福普(王妃)になりました。
ヌルハチは女直を統一して後金を建国。
ヌルハチとの間にはアジゲ、ドルゴン、 ドドの3人の息子が誕生します。
アバハイは重臣たちやその妻達に贈り物をして味方を増やしました。
そしてヌルハチの死後を考えてヌルハチの次男(生きている王子の中では最年長)ダイシャンに接近。ダイシャンと親しい間柄になりました。このころダイシャンはヌルハチの後継者と思われていました。二人は夜も会ったり、ダイシャンが宴会を開けばアバハイも出席、集まった人たちをもてなしていました。
やがて二人の関係はヌルハチに知られてしまいます。ヌルハチは怒ってアバハイを追放。ただし身内の醜聞は公表したくなかったのか表向きはアバハイの不正な蓄財・横領の罪で罰しています。1年ほど別居生活が続きました。
ところがヌルハチはアバハイを忘れられず、アバハイを呼び戻し再び大福普(王妃)にします。その後、アバハイはヌルハチの後宮で大きな力を持ち後宮の女性たちを引き連れて式典に参加していました。ヌルハチの晩年には政治や軍事のことも相談相手になりました。
ヌルハチは明との戦いで負傷。療養生活に入りました。
しかし女直にはハン(王)が後継者を決める習慣はありません。ハンの死後、王族会議で決めることになっていたからです。
ヌルハチは死の直前、療養先にアバハイを呼び出して会いましたがそのとき何が話し合われたのかはわかりません。
天命11年(1626年)8月11日。ヌルハチ死去。
ヌルハチの死後。四大ベイレ(ダイシャン・アミン・マングルタイ・ホンタイジ)からヌルハチの遺言として殉死を告げられました。四大ベイレはヌルハチのもとで政治を行う王族代表です。
アバハイは拒否しようとしましたが。殉死の命令は撤回されず、大ベイレたちに息子たちを無事育ててることを約束させて首を吊って自害しました。享年37歳。
アハバイはヌルハチと一緒に埋葬されました。
このアバハイの殉死のエピソードが沐王妃の話になっています。
アバハイの死はホンタイジの陰謀?
アバハイの殉死は現在でも謎とされていて。様々な意見があります。
ドラマや小説ではヌルハチの遺言はドルゴンを即位させないための陰謀になってます。歴史ファンの中にもホンタイジの陰謀と信じている人はいます。
ドラマにするならそのほうが面白いのですが。
実際のところはどうだったのでしょうか。
ドルゴンを王にする遺言はあったか?
当時の様子をよく見てみると。
アジゲの息子でヌルハチ存命中に成人して実戦にも参加したのはアジゲだけ。ドルゴンとドドはまだ未成年。実戦には出ていません。
アバハイの息子でヌルハチが一番可愛がっていたのはアジゲでした。もしアバハイの子から後継者を選ぶならアジゲにならないとおかしいです。
「ヌルハチが死の間際にアバハイを呼んでドルゴンを後継者にすると言った」というのは朝鮮の書物に出てくる話なので信憑性は低いです。敵対している朝鮮に後継者問題のような重要機密を話すはずがありません。明らかに自国を攻めたホンタイジを陥れる作り話です。
アバハイを殉死させる遺言はあったか?
アバハイの殉死はヌルハチの遺言と言われています。当時の女直には殉死の習慣はありません。そのため現代でも様々な説があります。
アバハイは活動的で派閥工作にも熱心でした。政治や軍事にも意見します。老いたヌルハチにとっては頼もしかもしれませんが、自分の死後まだ若いアバハイが力を持ったら国がどうなるのか不安になったのかもしれません。アバハイと旧ウラ国の勢力がアジゲやホンタイジを担いで後金を乗っ取るのを恐れたかもしれません。
ヌルハチが死んだとき。ホンタイジは四大ベイレの最年少で序列は4番目。ホンタイジに有力者のダイシャンやアミンを押さえつける力はありません。ホンタイジ一人で遺言をでっち上げるのは無理です。
もしヌルハチの遺言がなかったとしたらベイレや王族・重臣たちの意思になります。
ヌルハチの死後、日が開ける前にアバハイの殉死命令が出ました。本当にヌルハチの遺言があったか、事前にベイレや王族たちの間で話し合われていたはわかりませんが。ヌルハチの死亡する前に決まっていた可能性が高いです。
アバハイはヌルハチの寵愛を集め、違法な派閥工作(妃がヌルハチに無断で臣下に贈り物をするのは禁止されています)をしていたので敵も多かったのでしょう。ダイシャンも不倫騒ぎに懲りてアバハイとは距離をおいていました。結局、アバハイの殉死を止めようという人は誰もいなかったのです。
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