韓国ドラマ『ソドンヨ』は百済の王子チャン(ソドン)と新羅の王女ソンファの愛と運命を描いた歴史劇。壮大なスケールと切ないラブストーリーで多くのファンを魅了しました。
このドラマは史実を基にしながらも多くの脚色が加えられています。そこで本記事ではドラマ『ソドンヨ』と史実の違いを詳しく解説。
ドラマに登場するキャラクターや出来事の裏側、百済と新羅の関係など、歴史好きもドラマファンも楽しめる内容となっています。
この記事を読めば、『ソドンヨ』をより深く理解し、歴史に対する興味も深まるはずですよ。
この記事で紹介する内容
- ドラマ『ソドンヨ』のあらすじ
- ソドンヨの時代背景
- ドラマに登場する人物と史実との違い
- ドラマの演出と史実の違いを解説
『ソドンヨ』はどんなドラマ?
テレビドラマ『ソドンヨ』の概要
韓国ドラマ『ソドンヨ』は、2005年9月5日から2006年3月までSBS放送で放送された作品です。SBSの創社15周年記念作品として制作されました。
このドラマは27代王威徳王の息子ソドン(本名:チャン)と新羅の王女ソンファの恋物語を中心に、歴史的背景と文化を織り交ぜたストーリーが展開されます。
脚本を担当したのはキム・ヨンヒョン、演出はイ・ビョンフンが担当。『宮廷女官チャングムの誓い』のチームが手掛けた一作です。
韓国オリジナル版は全55話、日本版としては放送時間の関係で再編集され、全74話または全66話として放送されました。
あらすじ・最初から最後までの流れ
チャンの誕生前から話が始まる
『ソドンヨ』は主人公チャンの誕生前から始まります。第27代威徳王は踊り子のヨンガモに手を出し。ヨンガモは婚約者モンナスとの結婚を断念。ヨンガモは男子を出産しました。この男の子がチャンです。
百済を離れ新羅で暮らすチャンたち
ヨンガモは王宮を去りチャンと平凡な生活を送っていました。チャンは太学舎のモンナス博士に託されますが、宮廷内の陰謀から逃れるため百済を後にします。
ソンファ姫との出会い
母を失い新羅に避難したソドンは新羅の王女ソンファと運命的に出会いました。二人は互いに惹かれ合うものの、それぞれの国と身分の違いから数々の試練に直面。
阿佐太子との出会いと別れ
天の峠の仲間のサテッキル、阿佐太子との出会いを通じてチャンは成長。やがて自分が百済王の息子だと知ってしまいます。
王位を狙うプヨソンの陰謀で阿佐太子が死亡。チャンは阿佐太子の意思を受け継ぎました。
プヨソンとの対決とチャンの即位
プヨソンは王に即位。第29代法王となりました。チャンは試練に耐えながらチャンスを待ち、ついに正体を表してプヨソンを倒し。第30代国王 武王となりました。
ソンファ姫との結婚と義父の裏切り
新羅と同盟を結びソンファ姫とも結婚します。二人の間には王子も生まれ幸せに暮らしていました。
しかし新羅は同盟を破り攻めてきました。チャンは義父の裏切りに怒り戦いに挑むのでした。
ソドンヨの史実と時代背景
チャンのモデル・百済 武王
ドラマ『ソドンヨ』の主人公チャンのモデルになったのは、百済の30代王 武王(ムワン)です。武王は600年から641年まで在位。衰退していた百済の国力を発展させたことで知られています。
朝鮮半島の歴史書「三国史記」では武王は法王の息子とされますが。ドラマでは武王は威徳王の息子。これは中国の歴史書「北史」の説を採用しているからです。
歴史上の百済の系譜
点線は中国の歴史書「北史」の説。ドラマはこちらを採用しています。
武王の詳しい説明はこちらを御覧ください。
・ソドンヨのモデル・百済 武王(ムワン)の実話と家系図
ソンファ姫は実在するの?
『ソドンヨ』に登場するソンファ姫は新羅の王女として描かれ、チャンとの禁断の恋が物語の大きなテーマとなっています。
でもソンファ姫の実在は確認されていません。
正式な歴史書の『三国史記』には登場せず、『三国遺事』の薯童説話にだけ登場するからです。ソンファ姫はほとんど歴史的な資料がなく、伝説的な存在になっています
ドラマではこの伝説を巧みに取り入れてロマンティックなストーリーにしているのですね。
6世紀末から7世紀の朝鮮半島と東アジア
ドラマの舞台になっているのは 6世紀末から7世紀の朝鮮半島。この時代は三国時代と呼ばれ朝鮮半島では高句麗、百済、新羅の三国が互いに対立、領土を巡る争いが絶えませんでした。
朝鮮半島だけでなくこ日本(倭)や中国(隋・唐)も巻き込んだ国際的な動きの大きかった時代です。
ドラマでも百済と倭国の交流が描かれ、倭国との交流が百済の王位継承にも影響を与えていることがわかります。
当時の百済と新羅の関係
この時代。百済の主な敵は新羅でした。高句麗、百済、新羅の三国はときに同盟し、ときには敵対してその関係も複雑です。威徳王の時代は百済は新羅や高句麗と対立。三国では最も国力の劣る百済は倭と同盟して他の二国に対抗していました。
ドラマでも倭が出てくるのは百済にとって重要な同盟国だからです。
武王時代になると百済は倭の他に高句麗とも同盟。追い込まれた新羅は唐に援助を求めます。このように時の流れとともに激しく敵味方が入れ替わる時代でした。
ドラマの威徳王や武王も様々な国との駆け引きをしながら、同盟を結び百済の生き乗りをかけた戦いをしていました。
ドラマ『ソドンヨ』の中でもこのような両国の複雑な関係が描かれています。
ソドンヨ(薯童謠)とはどういう意味?
ドラマのタイトルにもなっている薯童謠(ソドンヨ)とは何でしょうか?
それは「三国遺事」という書物に載っている武王にまつわるお話です。簡単に紹介すると。
女性と龍の間に男子が生まれ 璋(チャン)と名付けられました。璋は子供のころ山芋(薯)を売ってたので薯童(ソドン)と呼ばれていました。
璋は新羅の王女の善花姫(ソンファコンジュ)に恋をして、芋を子供に配って歌を広めました。
その歌が薯童謠(ソドンヨ)です。その内容は「善花姫は恋人と合いびきしている」というもの。
新羅の真平王は怒って善花姫を追放。璋は善花姫を連れて百済で暮らし王となり、善花姫は王妃になり弥勒寺を建てました。
ドラマ『ソドンヨ』ではさらにドラマティックに脚色され、武王の人物像に奥深さを与えています。
さらに恋愛だけでなく、彼の成長過程や王としての業績までを描く壮大なストーリにしあがっています。
ソドンヨのドラマと史実の違い
モデルになった史実の人物
『ソドンヨ』では、史実を背景にしたキャラクターが物語を彩っています。
- チャン(武王)
主人公のチャンは百済の30代王 武王がモデルです。 - プヨソン(法王)
チャンたちの最大の敵 プヨソンのモデルは百済の29代王 法王。 - 威徳王
ドラマではチャンの父。 - 恵王
プヨソンの父。 - 真平王
新羅の王、ソンファたちの父。 - 摩耶夫人
真平王の妻。ソンファたちの母。 - チョンミョン(天明)姫
真平王の娘。ドラマではソンファの姉。野心家。 - トンマン(徳曼)姫
後の善徳女王。王女時代のみ登場。ドラマではほとんど目立ちません。 - 聖徳太子
名前だけの登場ですが阿佐太子が倭国で会った人物です。生前に聖徳太子と呼ばれていたわけではありませんが。そこはドラマなので気にしないことにしましょう(それを言ったら他の王も同じですから)。
これらのキャラクターは実在する人物ですが、脚色されているので史実どおりではありません。
モデルになった伝説上の人物
- ソンファ(善花)姫
ドラマのヒロイン。新羅の王女として物語に登場します。高麗時代に書かれた「三国遺事」に掲載された「薯童説話」には登場しますが。正当な歴史書の「三国史記」には登場しません。考古学的な調査で善花姫が建てた信じられていた寺が実は沙宅王妃が建てたものだと判明したりと、実在が疑問視されている人物。「善徳女王」でも登場しません。 - 阿佐太子
朝鮮半島の歴史書には登場せず「日本書紀」に登場する人物。推古天皇の時代に日本にやってきて聖徳太子と会ったとされます。存在はしたと思われますが、その経歴はよくわかっていません。ドラマの阿佐太子のエピソードは「倭国に行った」以外はすべて架空です。
ドラマを彩る架空のキャラたち
主要な登場人物の中にも架空のキャラがいます。彼らの存在がチャンとソンファの物語を彩り、ドラマに奥深さを与えてます。
- ヨンガモ
チャンの母。史実の武王の母はどのような人物か不明。ヨンガモの設定は架空です。 - サテッキル(沙宅己婁)
新羅のスパイでチャンの友でありライバルもドラマオリジナルのキャラクターです。ただし「日本書紀」には新羅の聖王に仕える「沙宅己婁」という人物が登場。その名前を採用しているようです。 - モンナス博士たち太学舎の仲間
モンナスと太学舎の技術者仲間はすべて架空。ただしこのような技術者がいたのは確かです。ドラマの特徴のひとつに百済時代の様々な工芸品や技術を紹介することがあるので。技術者を中心にしたストーリにしたようです。
- ウヨン姫
百済の王族として重要な役回りのキャラですが架空のキャラです。
百済の技術の表現に?
ドラマではモンナス博士とその技術者たちは百済の知識と技術の象徴として描かれています。彼らはドラマ中で重要な発明をしたり様々な物を作ったり、百済の発展に大きく貢献したとされます。
ドラマでも重要な場面で登場する香炉は百済工芸品の技術力の高さを象徴するものとして有名です。
百済に優れた技術者がいたのは確かです。
でもドラマの演出は史実とは違います。例えば阿佐太子の依頼で刀を作ったり、紙を作ったりと史実とは言えない内容が多いです。
儀式用の刀から10日足らずで日本刀が誕生するのは史実ではありません。
この時代、東アジアでは中国から伝わった実用的な直刀(片刃の剣=刀)がよく使われていました。刀は儀式用ではありません。
ちなみに日本刀は平安時代に日本で誕生したものです。
ドラマは百済の技術力の高さをアピールしようとしているのでしょう。けれど史実と違う部分も多いようです。
歴史書にない百済の王位継承争い
『ソドンヨ』では百済の王位継承をめぐる複雑な争いが描かれています。チャンが自身の真の出自を知り、王位を目指す様子はハラハラさせられる展開ですね。
武王の父は威徳王と法王の2つの説がある。
朝鮮半島の歴史書「三国史記」には「武王の父は法王」と書かれています。それだとチャンの父がプヨソンになってしまいます。
中国の歴史書「北史」には「武王は威徳王の子」と書かれています。ドラマは威徳王の子説を採用しているのですね。
朝鮮半島では忘れられた阿佐太子
「三国史記」には載ってませんが「日本書紀」には威徳王の時代には阿佐王子がいたとされます。威徳王に阿佐太子がいれば彼が次の王になってるはずです。でも史実ではそうはなっていません。
そこで「阿佐太子は何かの理由で王になれなかった」というストーリが考えられますね。
あったかもしれない?王位争い
ドラマではチャンと阿佐太子が威徳王の子の設定。
阿佐太子と威徳王の弟のプヨゲ(恵王)その子のプヨソン(法王)が王位争いする内容です。
歴史書にはこのような争いがあったとは書かれていませんが。様々な説を組み合わせて複雑な人間関係を作り、ドラマチックな王位争いのストーリーを作っています。
確かにこの方がドラマとしては盛り上がりますね。
新羅と百済の対立はあったけど政略結婚はない
『ソドンヨ』では百済と新羅の対立が主要な背景として描かれています。チャンとソンファの愛がどのようにしてこの対立を乗り越えるのか、その中で描かれる外交やかけひきも見どころの一つです。
史実でもこの時代は威徳王から武王の時代は百済と新羅は戦争状態にありました。
でもこの時代に百済と新羅の王族が結婚した記録はありません。現実には政略結婚できないほど悪い関係でした。
ドラマでもチャンとソンファが結婚したのに最終回で新羅が裏切って攻めてきます。史実に合わせようとしたのでこのような結末になってしまったのですね。でもそのおかげで悲劇的な内容になって印象的なラストになったと思います。
七支刀は武王の時代ではない
ドラマのオープンニングに「七支刀」が登場。主人公のチャン(武王)が七支刀を握っている場面があります。
七支刀は石上神宮にある宝物。この七支刀は百済王と世子が日本(倭)に贈った物。送り主は近肖古王が有力ですが、近肖古王と武王では230年以上の差があります。
七支刀は韓国では発見されたことがないものの百済の物として認識されているらしく「近肖古王」や「ソドンヨ」のドラマでも登場します。
「ソドンヨ」ではドラマのオープンニングに登場するもののドラマ本編では出てきません。謎です。
まとめ:エンタメ作品としての『ソドンヨ』の魅力
ドラマ『ソドンヨ』は史実をベースにしつつも大胆な脚色で見る者を楽しませてくれるエンタメ作品です。
主人公のチャン(武王)とソンファ姫の愛、百済の王位継承争い、そして百済と新羅の対立など、歴史に裏打ちされたドラマティックなストーリーが展開されます。
ドラマはあくまでも作り話。史実とは違う部分も数多く存在します。例えば、ソンファ姫の実在は確認されておらず、百済の技術力の描写も誇張されている点などが挙げられます。
でも『ソドンヨ』が面白い作品なのは確かです。史実とドラマの違いを理解しつつ、エンタメ作品として楽しむといいかもしれません。
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