鄭蘭貞(チョン・ナンジョン)は16世紀の李氏朝鮮に実在した女性。
韓国ドラマ「オクニョ 運命の女(ひと)」にも登場します。
「オクニョ・運命の女(原題は獄中花)では奴婢出身の妓生ですが美貌と話術を活かして尹元衡(ユン・ウォニョン)を虜にし妾になり、正妻を毒殺して最終的には正妻になります。
ユン家の財力だけでは物足りなくなったナンジョンは自分で商団を作って商売を始め莫大な財力を得ました。やがてオクニョ(玉女)の前に立ちふさがる大きな壁になります。
そんな彼女はオクニョ以外のドラマでは「女人天下」にも登場する朝鮮王朝の三大悪女のひとり。三大悪女の他の2人は禧嬪張氏(チャン・オクチョン)と張緑水(チャン・ノクス)。
史実のチョン・ナンジョンはどんな女性だったのか紹介します。
鄭蘭貞(チョンナンジョン)の史実
プロフィール
生没年
生年月日:1506年
没年月日:1565年
彼女が生きたのは1506年~1565年。朝鮮王朝(李氏朝鮮)の主に11代中宗~13代明宗の時代です。
日本では戦国時代まっただ中。織田信長(1534~1582)の親世代の人になります。
名前
姓:鄭(チョン)
名:蘭貞(ナンジョン)
家族
父:鄭允謙(チョン・ユンギョム)
母:南氏
子:尹孝源ほか
4男2女
鄭蘭貞(チョンナンジョン)の生涯
妾の子供として生まれる
鄭蘭貞(チョン・ナンジョン)は奴婢の母と両班の父との間に生まれました。
父は11代中宗に使える武官・鄭允謙(チョン・ユンギョム)。
母は妾の南氏(ナムシ)。
ナム氏の家は政変で連座になり、南氏は奴婢に落とされ鄭允謙の家に与えられたのでした。
チョン・ナンジョンは鄭允謙の末娘でした。
幼いころのチョンナンジョンは妾の子供・奴婢なので第1夫人から虐待されて育ちました。
妓生になってユン・ウォニョンと出会う
彼女は貧しい生活から逃れようと家出して妓生(キーセン)になります。
美しかったナンジョンは文定王后の弟・尹元衡(ユン・ウォニョン)の目にとまり、彼の妾になりました。
当時の尹元衡(ユン・ウォニョン)の正妻は重臣 金安老(キム・アンロ)の姪でした。
ユンウォニョンの寵愛を受けたチョンナンジョンがまず行ったのが他の妾を追い出すことです。
「オクニョ」ではこのとき追い出された側室の息子がユンテウォンだったという設定になっています。
文定王后に取り入る
ナンジョンはウォニョンの紹介で文定王后に会うことができました。ナンジョンはみごとに文定王后に取り入ることに成功します。
鄭蘭貞(チョン・ナンジョン)は灼鼠の変に関わったという俗説もあるようですが、実際には違うようです。
1527年(中宗22年)。世子の李峼(イ・ホ、12代仁宗)が住む東宮殿から焼かれたネズミの死体が出ました。敬嬪朴氏(キョンビンパクシ)と息子の福城君が呪ったものとされ、敬嬪朴氏と福城君は流罪の後、賜死。しかし後に対立していた金安老(キム・アンロ)たちの仕業だと分かりました。
しかし野史(民間に伝わる作り話や噂話)では文定王后と鄭蘭貞のしわざになっている場合もあるようです。
正妻 金氏を追い出して尹家の奥を仕切る
1534年(中宗)。文定王后は息子の李峘(イ・ファン)を出産。中宗にはすでに世子がいるので慶源大君(キョンウォンデグン)の称号を与えられます。
こうなると文定王后は自分の息子の慶源大君を次の王にしたくなります。
世子を支持する金安老(キム・アンロ)と文定王后は対立。
1537年。金安老が文定王后を退位させようとした事件が発覚。金安老は逮捕され流罪・死亡しました。
尹元衡(ユン・ウォニョン)の正妻 金氏は金安老の姪でしたから。金氏の立場は悪くなります。
鄭蘭貞(チョンナンジョン)は尹元衡と協力して金氏を追い出しました。文定王后も黙認していました。
「オクニョ」に登場する安国洞(アングクドン)の奥様は追い出された金氏がモデルです。
・安国洞(アングクドン)の奥様はユン・ウォニョンの正妻・金氏がモデル
鄭蘭貞(チョンナンジョン)は正妻ではありません。でも尹家の奥を仕切り、実質的な女主の立場にありました。
明宗の時代
明宗が即位
1545年。仁宗が死去。文定王后の息子・明宗が即位しました。
明宗は12歳と幼く文定大妃が垂簾聴政をして、尹元衡が政治を主導しました。
チョンナンジョンは文定王后の信頼を得て自由に王宮に出入りできる許可をもらいました。
正妻 金氏を毒殺?・朝鮮一の夫人に大出世
それでも法律上は金氏が嫡妻、鄭蘭貞(チョンナンジョン)は妾です。
1551年(明宗6年)。尹元衡の正妻・金氏が死亡。
尹元衡や鄭蘭貞(チョンナンジョン)を嫌う者たちは鄭蘭貞が毒殺したと噂しました。
1553年(明宗8年)。文定大妃は鄭蘭貞(チョンナンジョン)を嫡妻にしろと命令を出し。鄭蘭貞は尹元衡の正妻になりました。
さらに外命婦従一品 貞敬夫人の位をもらいました。家臣の夫人の中ではトップの位でした。朝鮮一の夫人になったのです。母が賤民の彼女にとって、当時では考えられない高い地位でした。
商売で財を蓄える
鄭蘭貞(チョンナンジョン)は尹元衡の権力を利用して専売の権利を獲得、商売で多くの財をなしました。
当時の朝鮮社会では大規模な商団を作って商売をするためには権利が必要でした。ウォニョンの影響力を利用して商売の権利を得たのです。
当時は商売は卑しい仕事と考えられていました。いくら権利を手に入れられても両班は商売をしません。自分で商売をして儲けようというのは身分の低かったナンジョンならではの考えですね。
鄭蘭貞(チョンナンジョン)の子の身分
鄭蘭貞(チョンナンジョン)と尹元衡の間には4男2女が生まれました。
当時の朝鮮には従母法があったので母が奴婢だと子も奴婢です。
どんなにいい生活をしていても鄭蘭貞の身分は奴婢になるので、彼女の子も奴婢です。
そこで尹元衡の力を利用して我が子の籍を自分から切り離すことに成功。彼女の子らは奴婢にならずにすみました。
4代 世宗時代に作られた法律。従母法以前、子は父の身分を受け継ぎました。従母法ができてからは子は母の身分を受け継ぐ決まりになりました。父が両班でも母が奴婢なら子も奴婢になります。
都の両班たちは権力を持つ尹元衡と財力を持つ鄭蘭貞の子供と結婚しようとしました。それほどナンジョンとウォニョンの力は強かったのです。
庶子に活躍の場を
夫の尹元衡は「人材登用は身分にとらわれず能力で決めるべき」と上奏。それまで朝鮮では科挙を受けることができるのは嫡子(正室の子供)だけだったのです。
尹元衡は嫡子と庶子(側室の子供)の差別をなくして官職につけるようにしました。
賤民出身で側女の子だったナンジョンの影響があったのではないかと言われています。
しかしそれは朝鮮の身分制度を揺るがす大事件でした。
各地の庶子や賤民たちは尹元衡と鄭蘭貞に取り入ろうと集まるようになり。両班たちはその様子を苦々しく思っていました。
仏教を盛んにするため協力
朝鮮では仏教が弾圧され儒教が普及。仏教は廃れていました。
鄭蘭貞(チョンナンジョン)は奉恩寺の僧侶・普雨を文定王后に紹介して禅宗判事にしてもらいました。すると仏教が盛んになります。
衰退していた仏教が一時的に盛り返しました。
ところが、そのことで儒教を支持する人たちから反感を買ってしまいます。結局、文定王后が亡くなったあとに僧侶普雨は流刑になったので再び仏教は廃れます。
チョンナンジョンの最期
儒教を信じる士大夫たちは身分制をないがしろにして、仏教を保護する鄭蘭貞(チョンナンジョン)を激しく嫌っていました。でも文定大妃がその後ろ盾になっているのでどうにもできません。
1565年。文定大妃が亡くなると後ろ盾を失ってしまいます。
5ヶ月後の1565年9月8日。延安金氏の継母カン氏は鄭蘭貞が金氏を毒殺したと義禁府に告発しました。
鄭蘭貞は前妻殺害の罪で捕まります。
尹家の10人の使用人が捕まり拷問を受けました。しかし彼女が金氏を毒殺したと認めた使用人は一人もいません。
本当に知らなかったのかもしれませんが、拷問を受けてもナンジョンを庇おうとしたのはなぜだったのでしょうか。意外にも使用人にとってはいい主人だったのかもしれません。
それでも重臣たちの圧力は強まります。鄭蘭貞(チョンナンジョン)は貞敬夫人の地位を奪われ賤民にされて、夫の尹元衡とともに黄海道江陰に流刑になりました。
11月13日。流刑地で毒入りの酒を飲んで自ら命を絶ち、尹元衡もその後に自決しました。
鄭蘭貞は悪女?身分制度に抵抗した女傑?
尹元衡と鄭蘭貞が朝鮮王朝の秩序を乱した大悪人とされました。
彼女は死後、儒学者によって「悪女」のイメージが作られました。
後の時代には朝鮮三大悪女(鄭蘭貞と張禧嬪、張緑水)の一人にまでされてしまいます。
たしかに当時の身分制度や儒教中心の価値観を壊すようなことをしていますが、他の二人に比べるとそれほどの悪事をしたとはいえません。
彼女自身は権力や財力への欲望が強い人でした。その一方で身分社会に対して反感を持っていたのかもしれません。
彼女の人生は儒教的な身分制度に逆らおうとした人生だったと言えるのかもしれません。
それだけに身分制度の厳しい当時の人々からみると、とんでもない悪女に思えるのは仕方のないことなんでしょうね。
チョンナンジョンのドラマ
林巨正 1996、SBS 演:パク・ソニョン
女人天下 2001年、SBS 演:カン・スヨン
オクニョ 2016年、MBC 演:パク・チュミ
朝鮮生存期 2019年、TV朝鮮 演:ユン・ジミン
オクニョでは悪役ですが。
チョン・ナンジョンが主役のドラマといえば女人天下。
文定大妃の手先となって邪魔者を消していくナンジョンの暗躍ぶりが見られます。
オクニョより前の時代から始まるのでナンジョンの人生を知るにはよいドラマです。
出典:楽天市場
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